船舶ファンドで海運界に恩返し
ビリーのビデオで経営の勉強!?

<<連載第180回>>

アンカー・シップ・インベストメント株式会社
代表取締役社長
辻 肇 氏


――ファンドの資金集めが順調のようですね!

辻 そうですね、2月に会社を設立し、4月にファンドの募集を始めましたが、5月半ばで目標額に達しました。投資家からコミット頂いた金額は申し上げられませんが、ローンを組み合わせれば1000億円以上の船舶投資が可能となります。

――すごい金額ですね〜。そもそもどうしてファンド会社を設立しようと思ったのですか?

辻 今回は日本にフォーカスを置いた船舶投資ファンドにするつもりです。日本の海運会社は船隊の拡張をかなり積極的に進めておられますが、船という大きな資産をどのように保有していくかという課題があるのではないかと思っておりました。ちょっと口幅ったいのですが、我々なりに業界に対する一つの「ソリューション」を提供出来るのではないかと思い切ってファンド組成を実行しました。数年前から外国でも船舶ファンドが出始めていましたが、日本の制度でも同じようにやれるのではないかと思い始め、昨年から本格的に準備に取り掛かりました。


―― 資金が集まり、これからファンドで船を購入していく訳ですね?


辻 そうです。なんとか入口までは到達したので、これからが本当の意味での勝負になると思っています。投資家さんの貴重なお金を預かっていますので、責任の重さをひしひしと感じていますよ。

―― でも勝てる自信があるから勝負に出たわけですよね!?


辻 いや〜、もちろん事業だから負ける為にやるわけではないですが(笑)、為替や市況などの経済環境や、制度や法律の変更等も大きく影響するので、自信というより不安の方が大きいのが正直なところですね。

―― 長く海運界に携ってきた中で思い出に残る仕事はありますか?

辻 
最初に海運業界を担当したのが'81年から'88年という、業界が一番大変な時代だったんです。この時期にこの業界を担当させてもらえたことは、自分では苦労はしましたが、業界の為に少しは貢献できたと実感できて、大変いい思い出になりました。就職活動の際に「会社を育てる、業界を育てる銀行だ」と聞き、それを真に受けて日本興業銀行に入行し、事業金融がやりたいと思っていた人間にとっては本懐ですね。

―― 興銀さんが業界の再編や統合を手掛けたケースが多かったと聞きますが、海運もそうだったのですか?

辻 昭和39年の海運再編成には我々の先輩が相当お手伝いしたと聞いています。80年代以降も大きな業界再編成がありまして、山下新日本汽船とジャパンラインの合併については銀行の担当者として作業に参加しました。難しい案件でしたが、関係者の努力が実を結び、ナビックスが誕生したのはご存知のとおりです。私は「どうもご苦労さん」ということで、ドイツに5年間勤務させてもらい、帰ってきてから再度海運担当になりましたが、今度は昭和海運と日本郵船の合併、ナビックスと商船三井の合併にも主力銀行として関与することになりました。ということで、いろいろな会社の合併劇を見てきましたが、自分の銀行が合併することになった時は本当にびっくりしましたしショックでしたよ(笑)。

―― 辻さんは日本海運界の生き字引ですね。

辻 それは全くの過大評価です。偶然そうした場に居合わせただけですよ。今は日本の海運会社は世界でもトップクラスですが、苦労していた当時を見てきたので、業界の方々は本当によくやってこられたな〜、頑張ってこられたな〜と思いますね。私自身も、いろいろと経験させてもらい成長することができ、海運業界にも海運会社の方にも本当に感謝していますので、今の会社を立ち上げる事で少しでも恩返しできればと思っています。

―― 人生最大のピンチは?

辻 銀行に入って4年目に、突然ドイツへの異動辞令が出たんです。「最初の半年は語学を学び、残りの半年で学んだドイツ語を生かしてドイツの金融の勉強をして来い」と言われて焦りましたよ。ドイツ語は学生時代に第二外国語として専攻していただけで、英語もろくに出来ない状態でしたから、行くまでは不安の塊でしたね。

―― で、どうなったんですか?

辻 そりゃあ大変でした。ドイツ語の学校が大都市から離れたとんでもない山奥にあるんです。時刻表も読めないのに電車を乗り継いでやっとたどり着き、自分ひとりで下宿を探したんですから。学校での授業もすごく厳しかった。難しい試験があるので、最初の2ヶ月間は猛勉強を余儀なくさせられ、1日の平均睡眠時間が3時間ほどでした。あの時は大学の入試試験とは比較にならないくらい勉強しましたね。なんとかドイツの銀行で研修を受けられるレベルには到達することが出来ました。

―― 休日の過ごし方は?

辻 休日はゴルフ、旅行、読書をしている事が多いですが、どれも趣味と言えるかは分かりませんね。旅行は家族サービスというか、奥様サービスというか、妻が写真に凝ってるんで、その撮影旅行に付き合ってるんですよ。

―― 奥様の撮った写真を是非見せてくださいよ!他には何か趣味ありますか?

辻 
スポーツ観戦も好きで、最近は米の大リーグにハマって結構詳しくなりました。ボストンレッドソックスとシアトルマリナーズがご贔屓で、雑誌やインターネットでまめにチェックしたり、試合をビデオに撮って週末はそれを見ている事が多いですね。選手の全員の名前はもちろん、昨日は誰が先発投手で何回で変わったか?など、全部頭に入っていますよ(笑)。

―― ご自身は何かスポーツはされていますか?

辻 自分ではゴルフくらいしかスポーツはしませんね。最近はメタボリック症候群気味なので、健康のためにスポーツジムでエアロビクスをやっています。

―― エアロビですか!?辻さんがエアロビをやっている姿が想像でません(笑)。

辻 う〜ん、でもスポーツジムでのエアロビは、結構男性もたくさん参加しているんですよ。ですが、週1回ほどしかジムに行かないのでなかなか効果は出ませんね(笑)。先日は、秘書が「ビリーズブートキャンプ」のビデオをくれたので早速見てみたんです。あれはエアロビよりキツくて、なかなかハードな筋トレですね。ビリーが仲間を叱咤激励しながら、実に上手に全体を統率しているんですが、経営者として部下をまとめるためにはあのビデオは非常に勉強になりますよ(笑)。

―― 好きな言葉や生活信条などありますか?

辻 私は国粋主義者ですので、藤原正彦さんの「国家の品格」には非常に共鳴する部分が多く、日本が大好きで日本の良さをとても誇りに思っております。欧米的な市場経済主義とか弱肉強食の考えや個人主義には賛同できません。みんなで分け合い、助け合うという家族主義的な思想を大切にしていきたいですね。

―― 最大の関心事は?

辻 最近、頭に来るのは「教育」です。あれはひどい!円周率は3で計算しろとか、かけっこしても順位をつけないなんておかしいですよ。日本がこれからの少子化の中で世界の一流国であり続けるためには、子供を甘やかしたゆとり教育では全然ダメです。先生やお役所はもう少ししっかりしないと。

―― 穏やかなお人柄とお見受けしていましたが、結構熱いですね?

辻 話口調や見た目はソフトに思えるかもしれませんが、考えている事は結構過激でしていつも控えています(笑)。

―― 最近感動したことは?

辻 先日、レッドソックスの松坂が投げた時、途中でお腹が痛くなって投げ切れなかったんですが、あの時彼は「みんなに申し訳ない」と言ったんです。あの考え方は外国人には理解出来ない感覚なんです。外国人の場合は「体調が悪いのだから仕方ないじゃないか」と考え決してみんなの前で謝ったりしません。こういう場合に、組織の役割の中で「みんなに申し訳ない」と自然に考える事が出来る日本人の良さがよく表われていました。

 

【プロフィール】
(つじ はじめ) 1953年 兵庫県神戸市生まれ。 1976年4月 日本興業銀行入行。'88〜92年 ドイツ興銀に派遣。帰国後、'00年より営業第七部(船舶融資担当部)部長に就任。'02年経営統合によりみずほコーポレート銀行となった後、本店営業第七部長、証券部長、常勤監査役、理事を歴任し、'06年 みずほ証券 船舶ファンドPTアドバイサーに就任。 '07年2月アンカー・シップ・インベストメント株式会社 代表取締役就任。現在に至る。