海の見えるゴルフ場
日本海事新聞ニュース
2019/10/16(水)
海游人】海の見えるゴルフ場(4):西原一慧。大洗ゴルフ倶楽部、「潮目」近くに立地する大家の傑作
太平洋を望む16番ショートホール

 国内の大きな「潮目」といえば、親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかる鹿島灘を含む東日本太平洋沖が有名で、世界でも有数の漁場である。
 「魚付き林」と呼ばれる海岸沿いの黒松林を守ることを条件にそのゴルフコースは設計された。今回訪問させていただいたのは茨城県大洗町にある「大洗ゴルフ倶楽部」。1953年に開場、設計は井上誠一氏で名実共に日本を代表するシーサイドコースである。
 「コースは美しく戦略的に」が信条だったとされる井上氏。松林保存のため、1ホールを除いて海岸沿いに平行して造られているが、原地形はそのままに人工物は最小限にとバンカーは全体でも33と少ない。その代わり、元の砂丘地のうねりが生かされたフェアウエーとコースを縁どる何万本もの黒松林が空のハザードとしてあり、特にティーショットは気を遣う-など特徴を書き出せば止まらない。
 国内男子ツアーの開催実績も多い難易度の高さと同時に、流れるようなコース設計には戦禍を逃れた大洗海岸の景勝への氏の愛着も感じられる。
 ニュースは日本時間の夜中3時に飛び込んできた。渋野日向子プロがAIG全英女子オープンを初出場で初優勝した。42年ぶりのメジャー制覇という快挙はもとより、プレーファーストを称賛されたこと、優勝者会見で語られた「目標は愛されるプロ」というコメントは特筆に値する。
 さわやかでキレ良く、笑顔の多い自然体での優勝は、あまたの先輩プロたちの惜敗の思いがそのまま、目指すべき日本のゴルフの形として引き継がれているようでファンをより一層感激させている。2020東京五輪を目前に「みる」ゴルフでの潮騒は聞こえてきた。
 一方で五輪といえば、東京大会のコース選定には紆余(うよ)曲折があった。立地条件に恵まれている、古くからのコースはそのほとんどが会員制の倶楽部となっていてプレーのほか、深いところでの運営も担っている。アフター五輪でゴルフを「する」ことを考えた場合、掲げられている公平理念からみて、五輪競技としてのゴルフは複雑な関係となり、この歴史は繰り返されている。
 日本のゴルフの一ファンとして「みる」方では、がぜん楽しみになってきた東京五輪。成熟していく社会の中で、ゴルフというスポーツが「する」方でも世界中のゴルフファンにとり、有益な将来像を描くきっかけとなるような、両方の面で「潮目」の大会となることを願うばかりである。
 唯一、海に向かって打つホールがこのコースの名物ホールである。太平洋を望む16番ショートホール、ティーショットを打つ手が思わず止まる。「智恵子抄」ではないが、こんなに上品できれいな空と海の景色を見たことがない。薄く淡い白と水色のボーダー柄が目の奥を刺激する。午後1時ごろにコースから見える船は、大洗港に向かう北海道との定期船だという。ゴルフコースと海と地平線、そこにあるもの全てを上から包み込む夏空の風景は一枚の絵そのものだった。
 コース設計の大家による傑作は、何かしらに思いをはせてしまうほど、「楽しく、難しく、美しく」をそのままプレーで感じられる、そんなコースだった。最後まで読んでくださった皆さんなら、ここでのプレー後、心に何を浮かべられるだろうか?
 (日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロ)
 にしはら・かずえ 00(平成12)年同志社大文卒。ゴルフインストラクター、日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロA級。現在は主に京阪神を中心にアマチュアゴルファーを対象にレッスン活動を行う。

西原一慧 氏

 

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