海の見えるゴルフ場
日本海事新聞ニュース
2020/04/02(木)
海游人】海の見えるゴルフ場(7):西原一慧。「白浜ゴルフクラブ」、過去への思慕、未来も見据え
5番ティーグラウンド

 「懐かしい」とは、辞書的な説明では肯定的感情に満ちた特別な過去への思慕または切望とされ、個人的には得意ではない感情だ。しかし人の記憶はすごいもので学生時代以来の「関西のハワイ」への訪問、いつの間にか延長された高速道路の出口を下りると、やはり懐かしい気持ちがこみ上げた。
 今回の訪問地は、和歌山県白浜町にある「白浜ゴルフクラブ」。遠浅の砂浜「白良浜(しららはま)」から程近く南紀白浜空港まで車で10分。コース周辺は別荘地や観光ホテルが所狭しと並んでいる。
 1956(昭和31)年に県内第1号のゴルフコースとして開場。全長は6110ヤード。設計は日本アマ4勝のトップアマチュアでもあった佐藤儀一。昨年訪れた「大阪ゴルフクラブ」と雰囲気は少し似ているが冬はもう少し温暖、夏はそよそよと吹く海風で涼しいそう。海が見えるホールと見えないホールがはっきりしていて、フェアウエーからのすぐそばに広がる太平洋の風景はさすが白浜、リゾート感満載のロケーションである。
 コースの印象は戦略的の一言で、バンカーは煩悩の数と同じ108個。全長は決して長い方ではないが、特にインコースは各ホールのトラップが目に入る。バンカーに囲まれている砲台グリーンが多く、ほとんどのショットがフルスイングできない感覚。数字以上の長さを感じた。
 白浜といえば温泉でも有名だが、レストランでは真っ青の田辺湾を眺めながらの食事、プレー後は源泉掛け流しのお風呂と、クラブハウスはまるで海の家のようである。
 古くからあり地元密着の関西屈指の観光地、白浜の空気を目いっぱいに吸い込むことができるコースである。
 新婚旅行が白浜だったというご夫婦が結婚30周年の記念に再び白浜を訪れた際、こちらでラウンドされたというエピソードをコースの方が教えてくれた。いいお話だなと思ったと同時に、人のこの「足が向く」という行動に及ぼす、「懐かしい」の感情の影響力はすさまじいのではと考えた。
 一方、将来を見据えた取り組みも垣間見られた。高速道路の延長により白浜の訪問者は、宿泊よりも日帰りされる方が多くなっている。白浜の圧倒的な知名度や歴史は、少なからずゴルフにも通じるので、今の時代に合っていてかつ、地元の県や地域のPRにもなる、練られたイベントをゴルフコースで行うのであれば、どのようになるかなどの話もざっくばらんに伺った。
 訪問したのは、ちょうど新型コロナウイルス感染が国内で確認され始めた時期で、少し嫌な感じがしますねと話していたところだった。
 いまだ終息の兆しが見えないこの出来事。いつもと変わらない一日こそ特別だと気付かされる。運良く自分だけが助かっても仕方がないように、ゴルフを通して社会にできることは何か、ゴルフが社会の公器になるにはどうすればいいか。有事であっても考えることは何も変わらない。
 ノスタルジーな作品が数多くあるジブリ映画評には「懐かしさとは、自分が自分であることを確認する作業」とある。足は、人間の部位の中で最も精神状態が現れるという。全世界が無期限に足止めを余儀なくされたというこの経験をいつか振り返った時、今よりももっと、誰もが自由な気持ちで自分らしい場所へ自然と足を向けられる世の中になっていてほしいと願うばかりである。
 (日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロ)

 にしはら・かずえ 00(平成12)年同志社大文卒。ゴルフインストラクター、日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロA級。現在は主に関東圏を中心にアマチュアゴルファーを対象にレッスン活動を行う。

西原一慧 氏

 

一覧へ戻る