海の見えるゴルフ場
日本海事新聞ニュース
2020/06/15(月)
海游人】海の見えるゴルフ場(8):西原一慧。東児が丘マリンヒルズゴルフクラブ、「余白」の美意識、実りもたらす
超パノラマの瀬戸内海と多島美の絶景が眼下に広がる(17 番ホール展望台から)

 「もし仮に人間の力で瀬戸内海を一からつくろうとしたならばどうなるか」と松下幸之助は言った。日本最大の内海である、瀬戸内海と何千もの島々が織りなす景色の構図の美しさに触れる言葉である。人が製作する優れたモノゴトのデザインにおいても、全体の構図に対する「余白」の兼ね合いは重要視されるそうだが、この「余白」で何かを感じるというのは、小さなことをおろそかにしない日本人特有の美意識だという。
 今回の訪問地は岡山県玉野市にある「東児が丘マリンヒルズゴルフクラブ」。1992年開場、全長は7080ヤード。コースは低木の落葉樹に彩られ時折、瀬戸内海から吹く穏やかな風が心地よい。「風景が美しいコースは難しいコース」の言葉通り、やりがいのあるコースである。
 瀬戸内海の海の幸がふんだんに使われたメニューがそろうレストラン、コースすぐの所に併設されているロッジをそれぞれ持つクラブハウスとなっており、過去には日本ゴルフ協会(JGA)ナショナルチームの合宿コースにも指定されていた。
 海が見えるのは18ホール中14あり、特に17番ホール展望台から見るコース越しの瀬戸内海の景色は心に残る。スマートフォンでは収まりきらない超パノラマの瀬戸内海と多島美の絶景が眼下に広がり、何分でも何十分でも眺めていられる静かな海の風景である。
 こちらのコースの17番といえば、2007年に行われた国内男子プロツアー「マンシングウェアオープンKSBカップ」で、当時高校生アマチュアゴルファーだった石川遼選手が最終日、勝利を手繰り寄せるバンカーからのチップインを決めたあの場面が思い出される。
 36ホール決着となった最終日に高校生が優勝するというドラマの伏線には、本戦出場権を懸けた予選会で、カットラインには届いていないもののアマチュア最上位のスコアだった石川選手への出場を事務局が認めたというエピソードは有名である。
 また、今年は全18試合が予定されていた国内女子下部ツアーだが、同ツアー6戦目の予定だった「山陽新聞レディースカップ」(今年は9月30日開幕予定)の会場として、こちらでの開催は今年で11回目を迎える。91年に2試合開催から始まった同ツアー。岡山県は第1回からコースを提供しており、今年を含めると県内での開催実績は22回を数える。
 地道に長い時間をかけて若い選手への試合の出場機会に理解を示し、積極的に関わってくださる関係者の取り組みは、余白を持たせた全体の構図に対して一分の隙間も無駄にしない姿勢を感じる。
 昨年はついに地元岡山県から日本と世界のメジャーを一気に取るチャンピオンまで誕生しているが、この地で次々実る大きな果実たちを考えると、同県関係者の方々の一体感あるご尽力は、愛情がこもっているというより、血が通っているとさえ言えるだろう。
 観光庁が16年にまとめた「スポーツツーリズム推進基本方針」に基づく、ゴルフツーリズムという新しい取り組みがある。2000以上(世界3位)あるとされる国内のゴルフコースを生かすべくゴルフを観光や旅の目的として計画する旅行スタイルのことだ。発表時はインバウンド(訪日観光客)に対するものだったが、今回のコロナ禍により観光業全体が国内需要の回帰に舵を切り直している。
 ゴルフコースの可能性を巡る同県関係者の新しい挑戦は続くが、そもそもこれは国内のゴルフ関係者が共有すべき課題である。経営の神様も絶賛した、今そこにある日本の景観美や元々日本人が持つ余白の美意識を大切にすることは、大いなるヒントになるのではないだろうか。
 (日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロ)
 にしはら・かずえ 00(平成12)年同志社大文卒。ゴルフインストラクター、日本女子プロゴルフ協会ティーチングプロA級。

西原一慧 氏

 

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