グリーンネットまほら:インタビュー Vol.06

「日本造船業の未来を考える覆面座談会」



―――はじめに

 日本造船業の建造量における世界シェアは、1970年代から1995年頃にかけて約4~5割を占めていた。しかし、世界的な市況低迷の影響を受け、2020年にかけて日本のシェアは減少、特に2001年以降、中国や韓国の台頭によって、現在は2割を下回る水準まで落ち込んでいる。
 これに連動する形で、人材不足も年々深刻化している。国土交通省 海事局によると、造船所社内の技能職数は継続して減少傾向が続いており、協力会社の技能職数も2016年の4.8万人をピークに下落が続き、2022年には3.3万人まで減少している。少子高齢化に伴う労働力人口の減少も見込まれる中、造船業界の人材確保は喫緊の課題だ。
 こうした危機感をただ嘆くのでなく、具体的に何をすべきか。匿名の参加者たちが、率直に意見を交わした。議論を通じて見えた課題の核心とは?

今回の座談会には、異なる立場、多様な視点を持つ5名が参加した。参加者は以下のとおり。

 某日本造船関係 トップ:K氏 (以下、造船K
 某日本造船関係 トップ:N氏 (以下、造船N
 某商社船舶関係 幹部:E氏 (以下、商社E
 某商社船舶関係 幹部:M氏 (以下、商社M
 某商社船舶関係 幹部:O氏 (以下、商社O
 司会:マリンネット株式会社 うぇーい田中


―――人材不足への対応、魅力ある造船業界とは

司会) まずは、社会全体として人手不足が叫ばれる中、海運業界も同様に人手の確保に苦労しているという話を聞く。造船業や船舶管理業、船主さんでも人手不足に直面しているという話がある。

造船K) いや~、その前にマリンネットさんの音声配信の「みみマリ!」、あれはいいですねえ。NSYさんと尾道造船さんの社長同士のゴルフ対決とか、掛け合いが面白いです。また業界の方の生の声も聴くことができていつも楽しみにしています。

司会) ありがとうございます。ゴルフ対決はまだ続いていますので、今後も楽しみにしていてください。
さて、戻ります。
新卒にしても中途採用にしても人の手当に頭を痛めているという声が業界内で広く聞かれる。実際はどうなのか?

造船K) 他の業界も人手不足と言われているが、造船業界は相当苦労している状況にある。これは我々の責任が大きいと感じている。日本造船業界はこの12年間で年間建造量が半減したという現実を目の当たりにし、「この業界に魅力があるのだろうか?」と疑問を抱く人が増えているように思われる。

商社E) 日本の造船業は、産業の核を成す存在として非常に魅力的だ。造船所が存在し、その周辺に船主や商社、金融、保険、舶用機器メーカーが集まってくる。世界中から人々が訪れ、業界全体が密接に連携している。例えば欧米メーカーが中心の航空機業界では、このような状況は見られない。まさに造船業が日本の海事産業の核となっている。

司会) 造船所における採用状況に変化はあるのか?

造船K) 非常に厳しい。長引いた不況の影響で、新造船の建造から撤退したり、修繕業務にシフトする動きもみられ、世間の造船所に対するイメージが悪化していると感じる。

商社M) 新入社員の中にも脱炭素関係の仕事をやりたいという若手は多い印象なので、脱炭素推進を掲げることが、若手を造船業に惹きつける一つの魅力になるのでは?

商社O) 確かに脱炭素に取り組みたいと考える若手は多い。アンモニアやバイオ燃料などの分野に興味を持ち、本気で脱炭素を実現しようとする姿勢が感じられる。

造船N) そのような若手の熱意を活力として活かせる可能性は大いにあるが、そもそもその取り組み自体が持続可能な形で実現できるかについては疑問が残る。植林など様々な取り組みが見られるものの、それらが本質的な解決策とは言い難い。永続性を見出すことが難しい領域であり、世界的に足並みをそろえ、取り組むことができるのだろうか。日本だけが頑張っても意味がないのではないか。

商社E) 「脱炭素」や「グリーン」のブームは一巡しているが、取り組むべきという方向性は変わらない。当社は数年前から、「グリーン」のトップランナーになることを戦略として掲げているが、現在は、前面に押し出すものではなく、案件を進める上で、当たり前の前提要素になっている。


「給与水準を上げないことには、新たな人材を呼び込むことは困難」 ――― 造船N氏



司会) 給与面では? 造船所も給与の底上げを進めていると聞いている。

造船N) 当社は、昨年一律の給与引き上げを実施し、今年および来年も、継続的に引き上げを行う予定だ。給与水準を見直さないと、人材不足で会社存続そのものが難しくなるだろう。
特に大卒の初任給を一定水準に設定しなければ、優秀な人材を確保することは難しいと考えている。採用段階で競争が生じない現状は、企業にとっても大きな損失だ。

造船K) 給与水準を上げることは、人材確保の上で大前提だが、それだけでは不十分だ。
若手に「夢」を語る必要がある。未来への希望やビジョンを持てるよう、「夢」を持つことが大事だと思う。ただ、個人的には日本の造船業が無くなってしまうのではないかという危機感が大きいので、私自身が夢を語ることが正直難しい。何とも複雑な心境だ。

商社O) 日本の造船業がなくなってしまうなんて考えられない。



―――日本の造船業が生き残るためには

造船K) 従来通り、コンベンショナルの船(重油焚き)を造り続けても、この先10~15年は細々と生き延びられるかもしれない。しかし、その先も生き延びるためには、造船業の魅力を発信し続けるだけでは十分ではない。さらに踏み込んだ取り組みが求められる。旧来の価値観や考え方に固執し、変化を受け入れにくい造船業界の意識改革の必要性を感じる。
大幅な円高にならない限り、今後2~3年、造船業は安泰であろう。だからこそ、今このタイミングで動かなければならない。


「それでもなお、一歩踏み出すために具体策を真剣に考えていきたい」 ――― 造船K氏



司会) 魅力の発信だけでは不足とのことだが、新しいチャレンジという点で、新燃料船の開発が1つの契機となるのでは?

造船N) 新燃料や、CO2輸送などの新しい分野は、日本の若い世代が造船業に興味を持ち、注目するきっかけになるかもしれない。しかし、これらだけで根本的な課題が解決するとは言い難い。

造船K) 経営面だけ考えると、新燃料は短期的に利益を見込みにくいというのは事実だ。汎用性のあるバルカーを造り続けることが最も効果的な選択肢になる。しかし、新燃料として、たとえばアンモニアへの移行が本格化した時、従来船の技術しか持っていないという状況には、不安や怖さを感じる。

造船N) 新燃料を否定しているわけではなく、実現できるのであれば進めるべきだと思う。しかし、既存の重油のサプライチェーンは長年かけて築き上げられたものであり、それをアンモニアや水素に置き換えることは、容易ではない。サプライチェーンの構築やコスト面の高いハードルが大きな課題である。

造船K) 新燃料船の開発も踏まえて、造船所の連携や設計の統一などの声が上がっているが、造船業のいわば頭脳である設計を一緒にすることは容易ではない。一方で、新燃料船の開発に関して、当社だけでは設計リソースに限界があるのも事実だ。
例えば、ある船種の開発についてのみ他の造船所さんの設計陣を融通していただくとか、ある特定案件に限り営業面で協力体制を築くことが実現できれば、業界全体にとってもメリットがあると考えている。そうなれば、中韓と伍していけるのではないかと考える。

造船N) その考えには賛成だ。当社も他の造船所と協力関係にあり、設計陣同士の情報交換を行なっている。もちろん、御社と協力して一緒に進める選択肢も十分に考えられる。

造船K) 造船に限らず、それぞれの会社には独自の経営方針がある。また、社員の生活を守ることは経営トップの責任だ。それでもなお、一歩踏み出すために、具体策を真剣に考えていきたい。

司会) 新燃料などの新規開発における造船所間の連携・協力には、取り組む意義や、その先の可能性の広がりも感じる。従来船ではどうなのか?

造船K) 各社とも、新しい分野の取り組みを進めているが、新規の取り組みでなくとも、たとえば、xx造船所の営業権を他社に譲る、とか、新燃料タンクなどのキーアイテムでの協業など、各社との連携や船台の融通などの会話はできるかもしれないし、実現したいと考えている。



―――商社船舶部が生き残るための戦略

司会) 商社船舶関係の皆さんにもご参加いただいており、商社船舶の現状について聞いてみたい。某社では、新入社員の配属希望先として船舶部に人気がないという声を聞く。中堅人材の流動性も高まっているようだ。

商社E) 経験と人間関係が重視される業界なので、活躍するまでに時間がかかる。しかし、ここ最近になり、徐々にその魅力が認知されるようになってきたと感じる。実際、船舶商談は、担当者一人で決定できる金額の規模が非常に大きい。数十億円規模の交渉を一人で行うのは、船舶の壮大なスケールも相まって夢を掻き立てる。

商社M) 当社の新入社員も同様の状況だ。他業界からローテーションで船舶に異動してきた若手の中にも「船舶は楽しい!」という声は聞く。理由はおそらくモチベーションと当事者意識だ。他の重厚長大産業の場合、若手は同世代の客先担当者との会話が多く、自分は組織の一員と感じやすい場合もあると聞く。船舶では、年齢・経験に関係なく自ら考えて行動する機会も多く、トレーディングなどでは、頑張れば権限を持つ相手と直接交渉の機会や接点を持つ機会も得やすいため、責任感や達成感を感じやすいのかもしれない。

商社E) この業界の魅力は、年齢を重ねるほど、人間関係や活躍の世界が広がることかもしれない。




商社M) 商社という性質上、商売を希望して入社する人が多い中、特に船舶の場合、 ‶自分でやっている”という実感を得られる機会が多い。若手の頃から船主の方々にかわいがってもらえることも、この業界ならではの魅力かもしれない。それが所以なのか、自らの意思で船舶を離れる人間は少ない印象だ。

司会) 船舶ならではのやりがいやスケールの大きさは、確かにモチベーションにも繋がる。一方で、業務の特性上、過去には長時間労働やストレスの多い環境もよく知られていた。現在では、かなり改善されたのか?

商社O) たしかにストレスを抱えている社員もいると思う。自分自身は毎朝7時には出社しているが、早起きがきつい(笑)。




商社M) 組織全体が厳しい状況なのか?

造船N) 会社の体質にも問題がある。上層部が過度のプレッシャーをかけることで、社外よりも社内の方がより厳しい環境になっている。最近はそのような会社が多いと感じる。

商社E) 我々が新入社員の頃は、プレッシャーをかける人が多くいた。

造船N) その力で成長できた側面もある。一概にプレッシャーを否定することはできないし、適度な緊張感は必要だ。

司会) 職場環境のストレスやプレッシャーの存在もあるということだが、働き方改革はどのように進めているのか?

造船N) 韓国は土曜日も出勤にしている動きがある。一方、日本は金曜日も休もうという動きが見られる。コンプライアンスも行き過ぎた感があり、一人歩きしている印象だ。そのような社会の流れはあるが、当社はより透明性を持って、しっかりと理由を説明したうえで厳しく指導をしていく、いわば「クリスタル・ブラック」を目指している。

司会) クリスタル・・透明性を持って伝えることは確かに重要だ。
造船所の連携については、異なる企業文化を持つ者同士の協力がいかに難しいかという現実がある。しかし、現状のままではいけないという強い危機感を持って、行動を起こさなければならないという話もあった。商社船舶の課題は何か?

商社E) 商社として求められる利益水準が格段に上がっている。資金と人材の確保は社内で競争があり、少しでも油断すると、経営側から厳しい目線を向けられることは事実だ。

商社O) トレーディングに関しては、商社よりも特にブローカーの台頭が凄まじく、太刀打ちできない。

商社E) 商社船舶部もかつてとは異なり、各社のカラーがそれぞれ異なっている。船主業に力を入れている会社、造船業にも進出している会社、船主業とトレードの両方を手掛けようとする会社がある。
当社内でも、トレードを事業会社化すべきとの意見もあったが、本社で進めてゆく。事業投資を行うにも、トレードで築いたネットワークと情報が原動力であり、事業投資はトレード事業によって支えられている。人事ローテーションをしながら、一体運営を行う。

商社M) 当社のトレーディングは事業会社に集約したが、トレーディングは人間関係が重要な世界なので、定期的にローテーションがある本社の人間だけではプレゼンスが上がりにくい。そのため、優秀なプロパー社員を育てて、トレーディングのプロパー化を図っていくことが重要と考えている。




商社M) 造船業では、対中韓造船所との競争や人手不足などの課題もあり、業界再編も進んでいる中で、商社の船舶部だけ各社が今のままの状態で生き残れるとは考えにくい。商社はこのままで良いのだろうか?
トレーディングなど商社間でパイの奪い合いをしている場合ではない。総合商社として荷物も運んでいる。商社にしかできないビジネスモデルや付加価値を提供していきたい。

造船N) 今後、船主と造船所のどちらが足りなくなるのかを考えると、造船所が足りない時代が来ると思う。
それも踏まえ、例えば、複数商社が共同の保有船事業を行ない、国内造船所からまとまった隻数の船を買うことを確約することで、国内の玉を商社が買う仕組みを作るのは有効だと思う。造船所もそれを見越して人を集めることができる。このぐらい大きな動きが必要だ。現在の商社の保有船事業は、意図しないタイミングでコーポレートから売船の指示をされてしまう。その状況から脱却する仕組みを作らない限り、商社の保有船事業も利益を出し続けることは難しく、生き残ることは困難だろう。

造船N) 商社は荷物を持っているという圧倒的な強みがある。

商社M) 各商社の特色や強みがあり、それを商社間の協業に繋げられないか?トレーディングはやりがいもあり、若手の成長に寄与することは間違いない。一方でトレーディングはベースであって、それだけを継続すれば安泰という状況ではない。

司会) 商社の次の一手として何が考えられるか?

造船N) Future Visionが必要だと思う。ブローキングして船を仕込んでいるだけでは、日本の活況には繋がらない。造船所が海外船主に船を売り続けてしまうのでは、国内産業も衰退してしまう。国内でお金が循環するビジネスモデルを考える必要がある。その点で、商社が荷物を持っているという強みを活かすべき。

造船K) 日本造船業が縮小する中、お金も人も投入している商社船舶部は、大変だと思う。最近は中国造船所を連れて、こっそり船主回りをしているとか・・。

商社E) 船主さんの事業を支えるのが使命の一つなので、そのような需要があれば応えられる体制にしている。しかしながら、船主さんは各々の計画があり、商社の紹介だから買う、という経営者はおらず、中国建造船を希望する船主さんも限定的だ。



―――中国造船所の台頭から学ぶべきこと


司会) 船主さんが中国や韓国の造船所へ発注することについてどう思うか?


造船N) どの造船所で造るのかは船主さんの自由だ。しかし、気を付けなければならないのは、その選択の背景が特別償却制度であることだ。本来この制度は、国内造船所に発注することで雇用が生まれ、地域産業の活性化に貢献することが目的とされている。その上で、投資する船主さんの負担を軽減しようという意図がある。海外の造船所に投資して節税するという考え方自体を見直すべきであり、いずれ是正されるだろう。


造船K) 日本に発注したいのに船台が無いと断られている船主さんの声に対しては?欧州や大手船主さんに売ってしまっていると言われている。


造船N) 日本に発注したい船主さんの声に対しては、本当に申し訳ないと思う。


造船K) 造りたくても造れないという状況もあり、我々は操業を上げたい。そうしないと立ち行かなくなる。
造船業界も厳しい立場だが、舶用メーカーさんも同様に厳しい状況だ。


商社M) 人手不足の中、どうしたら操業を上げられるのだろうか?


商社E) 中国では国家戦略として造船業をサポートしており、設計や造り手を分業化し、工場に大規模な設備投資を行っている。極力、自動化を進めることで品質を均質化している。これらの多くは国の戦略のもとで行っているので、規模で対抗するのは非常に難しい状況だ。船舶だけでなく自動車も同様だ。中国政府は、100年先を見据えて戦略的に投資支援を行っており、様々な産業で同様の動きがある。


商社M) 我々商社が造船業にとって力になれることは?


造船K) 中国造船所の情報収集は大変興味深い。


商社E) 我々は、20年以上、上海に駐在者を置き、主に中国の造船所の情報収集と定点観測を行なっている。特にこの2~3年で状況が大きく変化していると感じている。工務陣がブロックや建造前の状態を見ていると、5年前や10年前と比較して、技術面で明らかな進歩が見受けられる。もちろん、造船所によって品質差は大きいし、まだ改善の余地はある。中国造船所の経営者に話を聞くと、「熟練工は日本にはかなわないし、育てるのに時間がかかる。しかし、設備に関しては資金と土地があれば整備できる。だからこそ、できる限り最新鋭設備を整え、自動化を進めている。」と話している。


造船N) 最近当社も学習能力を持つ溶接ロボットや切断ロボットを導入している。
特に切断に関しては、これまで5人体制であった現場が2人体制で対応できるようになり、半自動化によって作業効率も向上してきた。
これら効率化の取り組みは、各社個別で進めるのでなく、国内造船所が共同で取り組むべきだ。そして、国内造船所共同の「究極の造船所」を造ってみたい。各社が資金を出し合い、知恵を絞り、最小何人で船を建造できるのかを検証する設備を作りたい。


造船K) 当社の工場を使っていただいても構わない。


司会) 中国の存在は無視できない。その動向をしっかりと捉え、時にはしたたかに学ぶ必要がありそうだ。


商社E) 中国の造船業は、設備や技術面で進んでいることは確かだ。しかし、その技術的な強み以上に、政治的・地政学的リスクは無視できない。


商社O) ナショナルセキュリティの観点から、日本での発注を希望する船主は多い。2028年の中国の状況は予測不能であり、日本への発注を希望する船主は相当数残ると考えている。


商社E) 中国の台頭もある一方、世界のバイヤーが、日本ブランド、日本建造船が良いという信頼は根強いと感じる。


造船N) その現状に胡坐をかいてはいけない。もっと努力をしなければならない。


商社E) 日本の造船業は、世界シェアが減少しても、今のスペースを埋めることが重要だという声も聞こえてくる。


造船N) 今後世界シェアを3~4割に戻すことより、現在の1割程度のシェアをいかに長く維持していくかも重要だ。シェアを追い求めることだけが目的ではなく、持続的に生き残ることが求められている。


商社E) シェア以外の何を取るか。


造船N) 品質はもちろん、日本建造船の場合、細かいトラブルも少ない。中韓に対する優位性を示し、世界の優良な顧客が日本に集まる仕組みを作ることが重要だ。


商社E) 自動車業界のロールスロイスやフェラーリのように少量生産ながらも、多くのバイヤーを魅了するビジネスモデルもある。


造船N) 将来の造船業の目指すべき姿を明確にするには、視点を変え、人を変えながら、議論を継続して進めていくことが重要だ。



―――総括

 日本の造船業界における人材確保には、給与水準の引き上げが不可欠であり、それにより優秀な人材を惹きつけることが可能となる。また、高齢化が進む熟練工への依存を減らし、技術力の強化をすることも重要な課題である。

 人材確保には、給与水準の向上だけでなく、若い世代が造船業に夢や魅力を感じ、やりがいを見出すことが鍵となる。そのためには、造船業の魅力を言語化し、次世代に伝え続ける努力が求められる。しかし、若い世代は、過去の好況期や不況期、かつての日本造船業の力強さを経験していない。過去を伝えるだけでは、十分に魅力を伝えることはできない。必要なのは、造船業の未来像を次世代と共に創ることだ。そのためにも、技術力や社会への影響力を具体的に示し、自らの役割を見出せるビジョンを示す必要がある。

 技術力向上を実現するためには、造船所間の協力体制の構築が鍵となりそうだ。特に、次世代船の開発を契機とした連携は、その一歩としては有効かもしれない。ただし、設計という高度な専門領域の連携を一気に進めるのではなく、先ずは現実的な範囲での協力関係を少しずつ築くことが理想的かもしれない。また、連携の対象は同業にとどまらず、商社など外部の力を活用することも選択肢となるかもしれない。日本海運業の中核を担う造船業を、持続可能な発展に向けてどのように再構築していくかについては、引き続き議論が必要である。




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