第3回 今治造船・JMUの提携による国内造船再編 /邦船三社第二四半期決算

対談日:2019年12月4日
更新日:2019年12月24日
株式会社日本海事新聞社:
代表取締役社長 山本 裕史
マリンネット株式会社:
代表取締役社長 谷繁 強志

(今治造船・JMUの提携による国内造船再編)

谷繁:いよいよ師走ですが、造船業界に大きなニュースが飛び込んできましたね。


山本:いやあ、びっくりしましたね。日本船舶輸出組合によると、国内造船所の2021年度の引き渡し分は82隻・369万総トンと少なく、確実に造船業界の再編や設備の統廃合はあると言われている中で、先月三井造船が国内の商船建造から撤退すると報道がありました。再編が進む中で、今回の今治造船・JMUの組み合わせは予想外でした。

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谷繁:あるとしたら今治造船・三菱造船だと思っていました。

山本:ファミリー系企業の今治造船は新造船竣工量では国内トップ、総合重工系のJMUは次いで2位となっています。バルカー・タンカー・メガコンテナと競合する船種があるため、この2社が手を組むことによるシナジーはかなり大きなものになると思われます。資本提携については今治造船がJMUの増資を引き受けて、最大30%出資する方向で調整しています。JMUの現在の資本構成はJFEホールディングスとIHIがそれぞれ45.93%、日立造船が8.15%となっています。今後今治造船が加わると、JFEホールディングスとIHIがそれぞれ32.15%、今治造船30%、日立造船が5.7%となります。


今造JMU資本提携図

谷繁:日本の造船業界では衝撃的な提携となりますね。設計技術で言うと、今治造船は丸亀に集中させ競争力を強化、一方JMUは総合重工系の高い設計能力を有しているので、双方のメリットを享受でき、共同会社を設立することで世界と戦うことのできる体制が整うのではないかと期待しています。一方で巨大造船グループの生産分野、現場をどのようにマネージしていくのかは今後の課題だと思います。


山本:今回の提携により、世界第3位の巨大グループとなります。中国では国営グループ2社が合併し世界トップの「中国船舶集団」が誕生したばかりですが、韓国の現代重工と大宇造船の合併審査の許可が下りると世界首位となります。


谷繁:世界でも再編が続くなか、国内の今後の動きにも注目したいですね。今回の提携ではLNG船は含まないとのことですが。


山本:既に今治造船と三菱造船がLNG船の設計および販売を手掛ける合弁会社MI LNGカンパニーを設立しているためですが、LNG船に関しては両社とも単独では手を出したくないのでは?と感じています。実際JMUは日本独自のSPBタンクを搭載したLNG船建造でかなり苦戦しています。


谷繁:バルカー・タンカー・コンテナ船に関しては両社の提携はしっくりくる組み合わせですが、LNG船の需要がものすごい勢いで拡大し、今後LNG船は大きなマーケットになることは間違いない中で、これからLNG船をどう扱うのか両者の考えを確認したいところですね。実際、中国の造船所がLNG船を建造しはじめ商船三井が発注しているので、このマーケットを中国に譲って国内はバルカー・タンカーに特化していくのか?それともLNG船も建造していくのか?注目したいところです。



山本:今後、LNG船は中東、アフリカ、ロシアなどの新規プロジェクト向けに最低でも100隻以上の需要が見込まれる中で、LNG船は「捨てるにはあまりにももったいない」マーケットだと思います。今後の期待として、ぜひ建造してほしいと思っています。


谷繁:バルカー・タンカーに特化し中国の造船所に対抗していけるのか?となると、設計技術の高さと現場の生産効率をどうマネジメントしていくかが鍵になりますね。

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山本:相対的に人件費や土地代が高い日本は価格競争では中国との競争は難しいですね。日本はLNG船の建造実績がかなりありますので、ぜひ今後も活かしてほしいと思います。すでに今治造船と三菱造船の提携がありますから、ここにJMUが加わり3社の提携があればLNG船分野でも十分競争できるのではないか?と見ています。


谷繁:LNG船はぜひがんばってほしい船種ですね。両社の提携による注目すべき点は、①船種の整理 ②設計体制 ③経営 ④各造船所のマネージ ですね。


山本:発表では2019年度末までに提携の具体的な方法などを定め提携を実行する予定とのことなので今後の方向性も見えますし、今後の行く末にますます注目ですね。


谷繁:他の中堅造船所の動向にも注視して行きたいと思います。


(邦船三社第2四半期決算発表をうけて)

谷繁:邦船三社の第2四半期決算発表がありましたね。全体的な感想としては、前回第1四半期の発表と大きな変化はありませんでしたね。


山本:三社とも黒字転換しているので、そこは前回同様明るい話題ですよね。ONEの黒字が大きく影響していると思います。今の海運では「黒字を出せる」ということがとても重要なことと思います。しかし一つ気になる点は、日本郵船の経常利益率が低いことです。なぜこんなにも伸び悩んでいるのかというと、航空輸送事業(NCA:日本航空貨物)が赤字を計上し足を引っ張っています。日本郵船の事業分野で赤字は航空輸送事業だけなので、今後この分野をどうするのかが大きな課題であると思います。。
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谷繁:米中の貿易摩擦の影響などで航空貨物市場の状況が悪く、処分するにも巨大な損失を生みますしどうにもできないのが現状なのでしょう。


山本:今回、各社で面白い現象がありました。不定期船において足もとは割といい印象があるにもかかわらずあまり損益に反映されていない点です。なぜかというと、FFA(運賃先物取引)の影響で損益計上のタイミングがズレたためです。実航海の損益(営業損益)は航海が完了する期まで計上されず、FFAの損益(営業外損益)は、実航海が完了する期とは無関係に、契約中は期末に評価損益を、決済時には清算損益をそれぞれ計上します。これを「期ズレ」というそうなのですが、各社で出ています。


谷繁:FFAの損益への反映は少しややこしいですが、今回日本郵船の決算資料で詳しい説明が載っていますのでぜひ参考にしたいところです。


山本:ONEに関しては通期の見通しでは下期に悪化する見込みとのことなので懸念材料の一つです。


谷繁:自動車船に関しても若干のへこみが見られますね。


山本:自動車船部門はこれまで「赤字になることは考えられない」部門でした。しかし自動車の生産地分散化により、大型船を満杯にせずにちょこちょこ各地へ輸送する採算性が良くない輸送法が次第に赤字を引き起こすようになりました。現在では各社とも意図的に自動車船を減らし、航路を絞ることで収益性を高めようという方向へ向かっています。これは自動車船部門の今後に向けての本格的な危機感の意思表示のように思えます。


谷繁:そのあたりのマイナス面を好調なドライ部門でカバーし、通期の予想では各社とも据え置いたということのようですね。


山本:いろいろ課題はありますが、各社ともなんとか黒字で終えたいといったところでしょう。


海運各社の2019年度第2四半期連結決算(単位:億円未満切捨)

2019Q2連結決算

谷繁:IMO2020、SOx規制へ向けての各社の対応も注目すべき点ですね。日本郵船では2022年までに70隻超、商船三井は100隻超、川崎汽船では運航船隊の約1割に相当する40隻と、各社とも規制適合油の使用やスクラバーの設置を進めていますね。


山本:コスト増加が心配されますが、各社とも設置のために船舶の運航が止まる日数が与える市況への影響も大きいです。石炭船で最大80日止まる船があるそうです。邦船社はマーケット上昇と見ていますが、が欧州船社の見方では逆に「この先悪化する」ほうが優勢のようです。スクラバー設置をこれから控えている船が相当数ある一方、中国からの新造供給が過多となり市況は悪化するというのです。果たして来年以降はどうなるのか?意見がわかれるところです。


(最後に)

谷繁:前半で話した「LNG船」に関しては、別の機会に改めてお話したいテーマですね。この5年間でマーケットの様相が様変わりしましたね。


山本:2014年頃のオフショア関連が停滞した時と比べると、ずいぶん様変わりしましたね。


谷繁:油価が下がり、油田開発に関して欧州の銀行が手をひいたことでプロジェクトが停滞していたところから復活しているとは思いましたが、ここまで多くのプロジェクトが立ち上がり、再び盛り上がっているとは思いませんでした。


山本:米国でのガス生産の伸びが大きいのだと思います。また、これまでのLNGの用途は発電用が主でしたが、燃料としての利用を見込まれるようになったこと、また新興国がFSRUを使ってガス発電に取り組み始めたことなど、環境問題への対応で需要が増加したことも一因でしょう。


谷繁:2019年の生産量3億5千万トンから2025年には4億5千万トンへ増産されるということですから、LNG船は大きなビジネスチャンスになりますね。


山本:日本ではこのビジネスチャンスをうまく利益に取り込めていない感じがあります。


谷繁:誰がどうLNG船を建造していくのか、高級なLNG船の受注活動は今後一般商船建造においても船台状況・船価関係に大きな影響を与えるでしょう。そのような高級な船ですから、船舶のデジタライゼーションにも影響を与えると思います。LNG船からデジタル化が始まり、一般商船へ普及していくいい流れができることを期待しています。


対談者略歴

山本 裕史

やまもと ひろふみ/1969年生れ。㈱日本海事新聞社 取締役

学歴:中央大学文学部ドイツ文学科卒

趣味:ラグビー観戦。大学時代はワンダーフォーゲル部。1992年にアメリカ(アトランタ-LA間)を自転車で横断したのが人生最良の思い出。2001年にラグビーのクラブチームでNZに遠征したのを最後に観戦が専門に。

海事関連で気になっていること:海運大手のドライバルク事業の事業動向。日本船主、造船、地銀の新造船を巡る動き。海外オペの日本海事クラスターとの関係性。


谷繁 強志

たにしげ つよし/1966年生れ。マリンネット㈱ 代表取締役社長

学歴:早稲田大学理工学部機械工学科卒

趣味:合気道。現在早稲田大学合気道部監督。

海事関連で気になっていること:中国造船のこれから。造船イノベーションを仕掛けてくるのかどうか?

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