海事法役に立つ はなし

英国法の契約書における交渉の注意点(その1) –“注意しないといきなり契約が成立する”

更新日:2014年12月22日
英国は契約書社会であるので、契約書にサインしない限り、契約は成立しない?


答えは、ノーである。

英国法では、特別な契約を除けば、口頭のやり取りだけで契約が成立する。傭船契約、売船契約あるいは造船契約に関しては、契約書は契約成立のための要件ではなく、口頭のやり取りだけで契約は成立してしまう。
契約の成立の条件は、端的に言えば、傭船契約、売船契約、造船契約などのコマーシャルコントラクトでは、「契約の主要な条件に関して当事者が合意すること」だけに尽きる。

そこで、英国法では、電話やEメールのやり取りだけで契約が成立することもあり得るのであり、過去の裁判でもブローカー間の電話やテレックスのやり取りだけで契約が成立したかどうかが争われたことは少なくない。
この点が売船契約で問題となったのが、Blankenstein号事件である。この事件では、建造中の3隻の船舶に関して発注者であるHapag-Lloydからギリシャ船主への売買契約の成否が問題となった。
売船の交渉は、Hapag-Lloydのブローカーとギリシャ船主のブローカーとの間でテレックスを通じて行われ、ブローカー間において契約のすべての条件に関して合意が行われた。

その後、買主は、①契約書にサインしない以上、契約は成立しない、②売船契約においては10%のDepositが行われない限り契約は成立しない、と主張し売買契約の成立を否定した。
英国の裁判所は、買主の主張を退け、ブローカー間のテレックスでのやり取りだけで売船契約の成立を認め、買主の契約不履行を認定した。

造船契約でも同じである。我が国のある商社が問題となった事件がある。この事件では、すでに締結済みの造船契約に関して、「アメンドの合意の成否」が問題となった事例である。
英国の裁判所は、売主である日本の商社の担当者と海外の買主との国際電話でのやり取りにより造船契約のアメンドの合意の成立を認めた(ただし、第2審では合意の成立を否定した)。


要するに、契約は、電話やメールだけで簡単に成立するのである。それでは、どうすればいいのか?

一番いいのは、メールにおいては必ずSubjectを忘れないことである。

電話に関しては、電話の前に、あらかじめメールなどで「電話でのやり取りはあくまでもSubjectがついている」ということを当事者で事前に確認することがエチケットかも知れない。
英国の判例で、英国の弁護士とギリシャの船主との会議が録画されていて、それが証拠に出されたこともある。電話録音などはヨーロッパの某国の船主では常識という話もある。注意が必要である。

当事者のやり取りにSubject to Contractなどを付ければ、契約が予期せぬ時期に成立したというトラブルを防ぐことができる。

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