海事法役に立つ はなし

英国法の契約書における交渉の注意点(その3)
- “Subjectは万能か?”

更新日:2015年2月2日
契約の交渉でSubjectを付ければいつでも交渉から撤回できる?

回答は、イエスでもノーでもある。要するに、Subjectの内容次第である。


Subject to Contractの留保がある場合、契約書を当事者がサインするまでは契約は成立しないと一般的に理解されているが必ずしもそうでないので始末が悪い。正確には、Subject to Contractとある場合、「当事者間のやり取りで契約が成立したと見做される時点までは契約が成立しない」という意味が正解である。ここで注意したいのは、契約が成立するのは、「契約書に当事者がサインした時」ではなく、「当事者間のやり取りで契約が成立したと見做される時点」ということである。一般的には、「契約書に当事者がサインした時」と「当事者間のやり取りで契約が成立したと見做される時点」は同じ場合が多いが必ずしもそうでないので始末が悪い。

Commodityの現場でよく見かけるのがSubject to Stemの表現である。これはさらに始末が悪い。Subject to Stemとは、「傭船者が積荷を見つけることができなかった場合は、傭船者は契約に拘束されない」という内容である。このSubject to Stemを巡って最近、英国で仲裁判断が出された。この仲裁判断は非公表のものであったが、航海傭船において傭船者がSubject to Stemを口実に船主に対してマーケットの関係で不利になった傭船契約を断ってきた事案である。ロンドンの仲裁人は、Subject to Stemがあれば、傭船者は要するに積荷を見つけることを口実にして簡単に契約から逃れることができると判断した(傭船者の勝利)。海運の現場では、マーケットの相場を確認するためだけにSubject to Stemで多くの船主と傭船契約を締結する強者の荷主もいると聞いている。

さらに問題なのは、Subject to Detailsである。この表現は、ブローカーが大好きな表現であり、傭船や売船の現場で頻繁に目にするものであるが、結構問題のある表現である。Subject to Detailsがあれば契約書のない限りは契約が成立しないと考えているブローカーも少なくない。しかし、このような理解は間違いである。Subject to Detailsであるが、正確には、「当事者間で全ての詳細が煮詰まるまでは契約は成立しない」という内容である。これは、逆に言えば、詳細が当事者間で全て煮詰まった場合は、契約書にサインがなくても契約は成立してしまうということである。随分前になるが、ある船会社の代理で私自身が傭船契約の交渉を進めていたが、最後の最後にファイナンスの関係でキャンセルをしたことがある。いくつかの条件がまだ決まっておらずSubject to Detailsがあるので相手方から賠償の請求は受けないだろうと考えてはいたが随分はらはらしたことがある。

なお、最後になるが、Subject to Detailsの考え方に関しては、米国法では英国法と解釈がかなり違うことに十分な注意が必要である。米国法では、Subject to Detailsがあったとしても、主要な条件が当事者で合意された場合は、契約の成立を認めた判例がいくつもある。米国の荷主と米国法で契約を締結する船会社は注意が必要である。

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