海事法役に立つ はなし

我が国の造船所に対する製造物責任に関して

更新日:2015年4月1日
製造物責任というとテレビから発火して火事が発生し消費者が死傷した事例が典型的なものといえよう。


製造物責任の主眼は、消費者保護にある。多くの国で我が国の製造物責任法と同じ内容の法律が制定されているが、多くの国では、製造物責任法は消費者保護を目的とするということで、製造物責任法を利用できるのは一般消費者に限定されている。

しかし、我が国の場合は、製造物責任法の利用者は一般消費者に限定されていない。すなわち、メーカーから商品を購入した一般消費者だけではなく、一般企業も製造物責任により保護を受けることになる。この点は、我が国の製造物責任法の目玉である。

今回は、最近に出されたいわゆる檜垣造船事件に関する東京地方裁判所の判決を中心にして、我が国の造船所等の製造物責任に関して解説したい。
製造物責任法とは
製造物責任法とは、「製造物の欠陥により、人の生命、身体または財産にかかわる被害が生じた場合、その製造業者などが損害賠償の責任を負うと定めた法律」とされる。

これまでの一般的な法律(民法)の原則では、被害者がメーカーに対して損害賠償請求を行う場合、被害者は「メーカーの故意あるいは過失」を証明しなくてはならないとされていた。

しなしながら、製品の製造過程もよくわからない消費者にとって、「メーカーの故意あるいは過失」を裁判で証明するのは容易ではない。その結果、事故があってもメーカーの故意過失の証明ができず、いわば被害者が泣き寝入りをするケースも少なくなかった。

そこで、製造物責任法においては、原則として、被害者が「製品の欠陥」を証明した場合、製造業者は責任を負うことにした。

この結果、これまでのように被害者が製造業者の製造過程を調べあげ製造業者の故意過失を証明する必要はなくなり、被害者は、事故を起こした製品が安全ではなかったことを証明すれば損害を製造業者から回収することができることになった。

既に述べたように、製造物責任法は、一般消費者だけではなく、広く製造物によって被害を受けた個人あるいは企業に適用される。企業間の紛争でも製造物責任法が適用になる。
また、製造物責任法は、製造業者だけではなく製造物を輸入した輸入者も製造業者と同じように責任を問われることになる。たとえば海外のストーブを輸入した商社は、輸入したストーブが欠陥により火災を起こせば、製造物責任法により賠償責任を負うことになる。
檜垣造船事件に関する東京地方裁判所の判決
この事件では、船舶のデリック(貨物積卸用装置)を使用して船舶が台湾でスチールプレート荷揚げを行っていた際に、ワイヤーロープが急に破断してスチールプレートが作業員にあたり作業員が死傷した。

船舶を所有する台湾の船会社が遺族に示談金を支払った後、船舶を製造した我が国の造船所とデリックを製造した我が国のメーカーに対して製造物責任法により損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

東京地裁は、「デリックには中央滑車のベアリングへの潤滑油の給油が事実上困難な構造となっておりデリックには欠陥がある」ということで、造船所及びデリックを製造したメーカーに対して損害賠償の支払いを命じた。

一方、ごく最近であるが、製造物責任法を巡っては、大きな判決が東京高等裁判所で下された。この判決では、化学製品を製造したメーカーの製造物責任が問われた事件である。

メーカーは中間の商社を通じて化学製品を日本からヨーロッパに輸出したが、化学製品の危険性を運送人に運送前に通知することを怠った。この結果、この化学製品は、運送人により適切に運送中保管されず、化学製品は運送中に出火し、コンテナ船およびコンテナ貨物は火災により大損害を被ることになった。

コンテナ船の船主およびコンテナ貨物の荷主が、この化学製品を製造したメーカーに対して製造物責任法に基づいて損害賠償請求を求めて提訴したが、東京高等裁判所はごく最近、化学製品を製造したメーカーは製造物責任法に基づいて10億円以上の責任を認める判決を下した。
製造物責任法と海運
海運においては、船主や傭船者は船主責任制限法により責任の制限ができるが、造船所やパーツ業者は船主責任制限法の対象ではない。
しかし、ひとたび海難事故が発生した場合の責任は巨大である。檜垣造船事件にみるように我が国の造船所にとっては製造物責任法による責任の追及は不可避であり、造船契約書の整備、警告など製品への慎重な対応、保険の手当など製造物責任法への対応は急務である。また、船舶のパーツ業者や海外から船舶や部品を輸入する業者も同様といえよう。

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