海事法役に立つ はなし

鹿島港における座礁事故
~安全港に関する最近出た控訴審判決について~

更新日:2015年5月1日


2006年10月に鹿島港で発生した座礁事故に関して、鹿島港は安全港ではなく傭船者は発生した座礁事故に対して船主に対して責任を負うべきであるという判決が英国で出されたことは既に報告した。
我が国の傭船者は、この英国判決を不服として控訴院へ控訴を行った。今年の1月22日に英国の控訴院は判決を下し、第1審の判決を覆した。傭船者の逆転勝利である。

第1審の判決が出された直後は、控訴院でも船主が優勢というのが多くの海事弁護士の意見であったが、控訴院の判決の直前には私の友人のロンドンの海事弁護士の多くが、第1審の判決が覆されることを予想していた。
真相は闇の底であるが、もしかしたら、法廷で何か裁判官と弁護団との間で感情的なやり取りがあったのかもしれない。わが国ではたまにあることである。

私自身は、控訴院の判決が出されてから30分後には電話でロンドンの友人から控訴院の判決の内容を知らされた。一瞬、日本の傭船者の株でも買おうかと思ったが止めた。インサイダー取引になるからである。その後、この傭船者の株価は一瞬だけ急上昇したが、ご存じの事情でその勢いは長くは続かなかったようである。

この控訴審判決に関しては、海事法律事務所やPIクラブなどが評釈を加えているが、どれもわかりにくい。
今回は、この控訴審判決に関して私なりに簡単な分析を加えたい。

控訴審の考え方
傭船契約における安全港のクレームに関して、傭船者から出される典型的な反論は、以下の3つである。
 
傭船者免責される場合
① 本船の船員の故意過失
② 予想できない超異常事態
③ Simple Bad Luck

「予想できない超異常事態」が本件のポイントである。
拙著「定期傭船契約の解説」でも詳しく説明しているが、「予想できない超異常事態」とは、本船の事故が、港の安全性とは無関係の突発事故と解釈されている(全訂版87頁)。例えば、突然発生した内乱に停泊中の船舶が巻きこまれた例が典型例である。

英国の控訴院は、鹿島港の事故は、「予想できない超異常事態」によって発生したものであると結論づけて船主の請求を棄却した。

控訴審の判決では多くの専門的な議論が行われているが、その理由づけは実に簡単で単純である。

鹿島港は、40年間に5,316隻のケープサイズの船舶が寄港したが、本件と同じような事故は一度もなかった。本件は、鹿島港を襲った「うねり」と航路を襲った北・北東の暴風雨という致命的な現象が偶然重なった極めて珍しい事故であり、従って、本件事故は港の安全性とは無関係の突発事故としか言いようがないというのが裁判官の結論である。

判決にははっきり書いてはいないが、判決を私が読む限りは、「先進国の近代的な施設でしかも40年にもわたって無事故の港が非安全港のはずはない」という裁判官の発想が前面に出たいわばイデオロギー的な判決と言えよう。

この判決には賛否両論がある。負けた船主サイドの法律事務所の弁護士と最近食事をしたが、「最高裁で絶対に覆す」と吠えていた。本件に関する我が国での海難審判では、鹿島港の安全性に関して疑問を呈していた個所もあり、船主サイドの弁護士の言い分も理解できないわけではない。英国では、最高裁で逆転勝訴というケースも少なくない。

本件に関しては、イギリスの最高裁判所への控訴が認められるかどうかはまだ決まっていないようであるが、今後の裁判の成り行きが実に楽しみではある。
 

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