海事法役に立つ はなし

タンカーへの船舶融資に関して アメリカのOil Pollution Actとレンダーの責任

更新日:2015年10月1日

バルカーマーケットの不振の影響で、コンテナ船とタンカーへの船舶融資が激増中だという。筆者へもタンカーの船舶融資に関する金融機関からの照会が増えてきている。
多くの質問は、アメリカのOil Pollution Act 1990(以下「米国油濁法」)との関係で、アメリカで大規模油濁事故が発生した場合において、レンダーが油濁責任を直接に負うリスクはないか、という点である。
「注意して行動すればレンダーが米国油濁法において直接責任を負うことはない」というのが筆者の見解であるが、以下ではこの点を簡単に説明していきたい。

米国油濁法について
エクソン・ヴァルディーズ号は1989年3月に、アラスカ湾沖で座礁し、積載量の20%にあたる1100万ガロン(24万バレル)の原油がプリンスウィリアム湾に流出した 米国油濁法は、エクソン・ヴァルディーズ号の油濁事故を契機に成立したものである。

米国油濁法は、タンカーの油濁事故が米国で発生した場合の民事賠償に関して規定する法律(連邦法)であるが、以下の特徴を有している。

(1)米国の航行可能水域又は排他的経済水域で発生した油濁事故が対象となる
(2)「船舶を所有、運航又は裸用船する者」が責任主体となりその責任は厳格責任
(3)油の除去以外にも広く発生した損害に対して責任主体は責任を負う
(4)責任主体は、一定の金額に責任制限が可能

「船舶を所有、運航又は裸用船する者」が責任主体とは、英語でResponsible Partyと呼ばれるものであり、本稿のキーワードになる。
責任主体は、自らの故意過失の有無にかかわらず、油濁事故が発生した場合には、被害者に対して、責任を負う。これを厳格責任という。
責任主体は、責任制限が可能であるが、実務的には、大規模事故が起こった場合に米国で責任制限を行うことは難しいと言われている。
そこで、以上をまとめると、米国の航行可能水域又は排他的経済水域でタンカーが大規模な油濁事故を起こした場合、「船舶を所有、運航又は裸用船する責任主体」は、被害者にして、自らの過失の有無に関係なく、責任を無限に負うことになる。

米国油濁法と船舶融資
1990年代には、金融機関はアメリカを航行するタンカーへの船舶融資には消極的であった。アメリカOPA条項と言って、借主がタンカーをアメリカへ配船する場合にはいちいち金融機関の許可が必要なこともあった。
しかしながら、2004年に米国油濁法が改正され、船舶融資を行う金融機関の米国油濁法における免責が明確になった。要するに、2004年の米国油濁法の改正によって、責任主体の定義に修正が加えられ、船舶に対して担保的な利益だけを有しているだけのいわゆるレンダー(Lender)は、米国油濁法における責任主体から外された。 そこで、タンカーの船主にローン契約で融資を行い、タンカーに抵当権を設定する銀行などの金融機関は、米国油濁法の責任主体にはならないことが明らかになった。

今後の問題点
以上のように、現在は、シップファイナンスにおいて、銀行が米国油濁法で責任を負わされることはないのが原則であるが、これはあくまでも「原則」であり、対応を間違えた場合は金融機関が例外的に責任主体になることがある。米国を航行するタンカーへの船舶融資に関しては、船舶の融資の当初から専門の弁護士による関与や指導が必要となろう。
また、船舶融資で使用するローン契約に関しても、米国を航行するタンカーへの船舶融資に関しては、ローン契約のコベナンツの手当やストラクチャーアレンジメントに関して通常の船舶融資のローンとは違った対応が必要であるというのが通説である。
また、リースの形態による船舶融資タンカーへの船舶融資に関しては、金融機関がローンを行い船舶に抵当権を設定する場合とは別の配慮が必要と言われており、最近のメキシコ湾での油濁事故(ディープウォーターホライゾン事件)にも絡んで注意が必要である。

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