海事法役に立つ はなし

傭船者からの傭船料の回収

更新日:2016年3月1日

現在の史上まれなバルクマーケットにおいて、傭船料回収の法律相談は少なくない。今回は、傭船料の回収のための「ドラえもんのポケット」をご紹介する。

1. 再傭船者や荷主からの直接回収
筆者の経験上、傭船料の回収において最も効果的なのは、再傭船者や荷主からの直接回収である。過去にも、デンマークのプログレスグループの破綻においては、この方法で効果的に傭船料回収を行うことができた。 方法は、実に簡単であり費用もかからない。傭船料が支払われないときは、傭船者の再傭船先や荷主に対して通知を行い、船主に再傭船料や運賃を支払うように要求するのである。通知のフォームもいたって単純であり、筆者の著書「設問式 定期傭船契約の解説」でも英国弁護士と相談のうえでプログレスグループ破綻時に使用したフォームを紹介している。 通知を受け取った再傭船先や荷主であるが、簡単に船主に再傭船料や運賃を支払うことは期待できないが、彼らが傭船者に払うこともない。再傭船先や荷主は様子見を決め込むことになる。その結果、傭船者は期待していた再傭船料や運賃を受け取れなくなることになり、傭船料を出し渋る傭船者に対する大きなプレッシャーになる。 プログレスグループの場合は、船主が荷主に対して通知を行った当時、筆者は大阪に出張中であった。深夜になって、筆者の携帯に傭船者から電話が入った。その後、一時間近く電話で交渉した。電話交渉は成功したが、ホテルの隣の部屋から苦情を受けた。

2. 積荷の留置
傭船料が支払われるまで積載している積荷を荷主に渡さないということで、船主や荷主から未払いの傭船料を回収する方法である。 理論的には、積荷の留置を船主が「合法的に」できる場合は限られている。しかしながら、多少違法とみられる積荷の留置であっても、積荷を早く欲しい荷主が船主と示談に応じる場合も少なくない。 私も東海商船の民事再生事件においてある船主のために積荷留置を行い未払い傭船料の回収に成功したが、積荷の留置中、夜も眠れなかった。 積荷の留置をしたが、荷主がまったく交渉に応じず、船舶は1か月間以上も海上を碇泊し、仕方なく揚げ地で荷物を揚げたら荷主から賠償請求をされて船舶はアレストされた、こんな事例も少なくないと聞く。積荷の留置はハイリスクハイリターンな手段である。

3. 積荷あるいは揚荷のボイコット
傭船者が傭船料を払わない場合に、よく行うのが積荷あるいは揚荷のボイコットである。スロー・スティーミングなども行われることがある。 この手のボイコットも、積荷の留置と同じように、荷主などとの関係でトラブルも少なくない。ボイコットをするときは、専門家の意見を取得すべきである。

4. 傭船者の資産の差押
傭船料を払わない傭船者の銀行口座の差押をしたことがある。差押後に判明した傭船者の銀行口座の預金額は数百ドルであったが、差押をした銀行は傭船者の取引銀行であり、それなりに差押は効果的であった。 一番有効なのは、傭船者の船舶の差押である。傭船者は、別会社を使用して船舶を保有していることが多いが、法人格の違いを無視して差押をすることも国によっては可能である。有名なのは南アフリカやカナダであるが、それ以外の国でもこの法人格を否認した姉妹船差押を認める国がある。

5. 追加の担保の取得
以上の1から4までの手続きを行い、傭船者の破綻において傭船者や傭船者のグループから追加の担保の取得を獲得することも方法である。私も姉妹船の差押を某国で行い、その後傭船者の破産申立をギリシャで行い、ギリシャの傭船者と示談し、傭船者の代表者から個人保証を、傭船者のグループの船舶管理会社から法人保証を取得し、結局、示談額300万ドルの全額回収に成功したことがある。 なお、傭船者破綻時の保証書の取得はかなり技術的な分野であり、専門家のアドバイスが不可欠である。

6. 船舶の引き揚げ
経営難に陥った傭船者に見切りをつけ、船舶を引き揚げて新たな傭船者を見つけることも方法の一つである。 三光汽船の倒産事件では、三光汽船が経営難により傭船料の減額を一方的に宣言してから多くの船主が船舶を引き揚げた(私がトップバッターであったようである)。 結果論として言えば、三光汽船の場合は、早く船舶を引き揚げた船主の方が、三光汽船に付き合い会社更生手続きに巻き込まれた船主よりも損害が少なかったようである。 傭船者が傭船料を払わない場合は、傭船を切ることも選択肢であり、この点は船主だけではなくファイナンサーも理解すべき点である。 以上のように、傭船者が経営難で傭船料を払わない場合は、いくつかの救済手段がある。船主としては、この選択肢の複数を活用して、傭船料の回収を行うのが実務である。

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