海事法役に立つ はなし

ニューヨークプロデュースフォーム2015について

更新日:2016年4月1日

ニューヨークプロデュースフォームは、バルク船において世界的に広く使われている標準的契約書である。私の友人であるベテランのロンドンの弁護士によれば、彼はバルク船の定期傭船契約に関しては、ニューヨークプロデュースフォーム以外の契約を取り扱ったことはないそうである。私自身は過去に一回だけBALTIMEの紛争に関わったことがあるが、それ以外は全てニューヨークプロデュースフォームである。ニューヨークプロデュースフォームの市場独占率は、アップルも真っ青である。

ニューヨークプロデュースフォームは何度も改訂されてきたが、もっともよく使われているのが1946年フォームである。その後、1981年フォームや1993年フォームが世に出されたがあまり使用はされていない(もっとも、最近倒産した日本の某海運会社は1981年フォームを好んで使用していたが)。

海運マン(あるいは海運レディー)にとっては、やはりなじみのある1946年フォームが絶対なのである。1946年フォームの判例が最も多く、何か紛争があれば判例を参照して裁判をすることなく紛争を解決できる。1946年の文言は、関係者すべてが慣れ親しんだものである。内容も公平である。新しいフォームは、長すぎるし、文言が微妙に1946年フォームと異なっている点が少なくない。新しいフォームを使用すればまた、新たな紛争が発生する。

筆者のアドバイスは1946年フォームを使用し続けなさい、自社の慣れ親しんだRider Clauseを信用しなさい、という一言である。

かような状況で、最近、ニューヨークプロデュースフォーム2015というものが性懲りもなく発表された。

この契約書の特徴は、ずばり言って、「長すぎる」ということである。最近シンガポールにおいてSingapore Ship Sale Formという異常に長い中古船の標準売船契約書が発表されたが、今回のニューヨークプロデュースフォーム2015は同じように長い。読んでいて疲れる。BIMCOの作成した戦争条項などの特約を挿入した結果、分量が長くなったようである。特約事項はRiderに入れればいい話であり、何故本体に入れなくてはならないのかよくわからない。また、トリップチャーター、減速航行、バラスト水交換規則の対応、電子BL等々を取り込んだ最新の契約というが、このような点も、必要な関係者は、Rider Clauseで手当てすれば良い話である。

次の特徴は、昨今の傭船者倒産事例において、船主の利益を守る様々な条項を入れたことである。具体的には、船舶の引き揚げにおける船主の傭船者に対する損害賠償をやりやすくした、傭船料の不払いにおける船主のボイコットを容易にした、再傭船料へのリーエンの行使を容易にした、等である。

しかし、傭船者倒産事例において、このような新フォームの工夫の成果がどのくらい意味があるのか疑問である。はっきり言って、絵に描いた餅のような条項である。傭船者にお金がなければどんなに優れた条項も意味がない。

その他に、これまでの改訂と同様に従来のニューヨークプロデュースフォームの規定に関して微修正を数多く行っている。このチェックの手間、自社のRider Clauseの見直しの手間は馬鹿にならない。

以上のように、ニューヨークプロデュースフォーム2015年は我が国の関係者にとっては意味のない契約書であると言えよう。従来の1946年フォーム+Rider Clauseで十分である。

最後に、ニューヨークプロデュースフォーム2015年の特徴は、契約にかかわる紛争の解決地(仲裁地)を広くしたということである。しかし、残念ながら、我が国の海運集会所は仲裁地として指定されていない。日本人を無視したこの契約を日本人としては使うべきではない、と言ったら言い過ぎになるのであろうか???

業務内容
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理・海難事故(船舶衝突・油濁・座礁等) ■航空機事故 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理 ■海事関係の税法問題におけるアドバイス ■船舶金融(シップファイナンス) ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 貿易あるいは信用状をめぐる紛争、石油やその他商品の売買取引をめぐる紛争を解決します。ICC仲裁やJCAA(日本商事仲裁協会)の仲裁も行ないます。Laytime、Demurrageに関してもアドバイスを行います。 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ヨット、プレジャーボートやジェットスキーなどの海難事故に対処するとともに、これらの売買などにかかわる法律問題に関してもアドヴァイスを行います。 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)

免責事項
「海事法役に立つはなし」のコンテンツはマックス法律事務所殿から提供を受けているものです。よって、マリンネット(株)が作成するマーケットレポート等、オンライン又はオフラインによりマリンネット(株)が提供する情報の内容と異なる可能性があります。従いまして、マリンネット(株)は本「海事法役に立つはなし」の記載内容を保証するものではありません。もし記載内容が原因となり、関係者が損害を被る事態、又は利益を逸失する事態が起きても、マリンネット(株)はいかなる義務も責任も負いません

著作権
•マックス法律事務所が海事法 役に立つはなし(http://www.marine-net.com/maritimelaw/)に掲載している情報、写真および図表等全てのコンテンツの著作権は、マックス法律事務所、マリンネット、またはその他の情報提供者に帰属しています。
•著作権者の許諾なく著作物を利用することが法的に認められる場合を除き、コンテンツの複製や要約、電子メディアや印刷物等の媒体への再利用・転用は、著作権法に触れる行為となります。
•「私的使用」1あるいは「引用」2の行為は著作権法で認められていますが、その範囲を超えコンテンツを利用する場合には、著作権者の使用許諾が必要となります。また、個人で行う場合であっても、ホームページやブログ、電子掲示板など不特定多数の人がアクセスまたは閲覧できる環境に記事、写真、図表等のコンテンツを晒すことは、私的使用の範囲を逸脱する行為となります。
1. 著作権法第30条 「著作物は、個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること」
2. 著作権法第32条 「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」

Email : info@marine-net.com