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二重船籍とは?

更新日:2016年5月2日

二重船籍(デユアルフラッグ)とは?最近よく質問を受けることがある。

ある国で船籍を有する船舶が、他の国の裸傭船者に傭船に出された場合において、裸傭船者の所在国の船籍に登録が可能になる場合がある。このことを二重船籍(デユアルフラッグ)という。裸傭船登記と呼ばれることもある。

裸傭船者の船籍に登録されている間は、もともとの国籍はいわば休止されることになり、運航等の船舶のオペレーションに関しては、船舶は、裸傭船者の船籍を有している船として実務上取り扱われることになる。

我が国では、パナマ船籍の船舶をフィリピンやシンガポールの船会社に裸傭船に出し、船舶をフィリピンやシンガポールの船籍に登録することが頻繁に行われている。二重船籍ができるかは国によって立場が異なり、例えばパナマ船籍の船を香港の会社に裸傭船に出しても、船舶を香港籍にすることはできない。

ヨーロッパでこの二重船籍(デユアルフラッグ)を頻繁に行ったのが欧州復興銀行である。彼らは、ロシア船主に船舶融資を行ったのであるが、ロシア籍の船舶に抵当権を設定することには躊躇を覚えていた。ロシア籍の船舶抵当権など前例がなかったようである。そこで、欧州復興銀行はロシア船主にキプロス籍の船会社(子会社)を持たせこの子会社がキプロス籍船舶を保有した。その上で、欧州復興銀行がキプロス船籍の船舶へ抵当権を設定した後に、キプロスの船会社(子会社)がロシアの船会社(親会社)に裸傭船に出し、当該船舶にロシア船籍を持たせる運用が頻繁に行われていたのである。

この二重船籍に対する船舶融資であるが、ファイナンサーは裸傭船者の船籍ではなく、あくまで、ももともとの船籍に抵当権を設定することになる。たとえば、パナマ船籍の船舶をフィリピンの船会社に裸傭船に出した場合、抵当権はあくまでもパナマに設定することになる。

銀行がパナマ船籍の船舶に抵当権を設定した後に、パナマ籍船がフィリピンに裸傭船出されてフィリピン籍の船となった場合に、パナマ籍船舶に設定した抵当権に不安はないのか?

裸傭船登記でフィリピン籍の船となった場合にも、パナマ船舶の抵当権が消滅するわけではない。裸傭船登記はあくまでも、裸傭船の存在する期間だけの一時的な登記であり、裸傭船がなくなれば船舶はパナマ籍に名実ともに復帰する。

この点は船舶融資の契約書の出来不出来も関係するが、二重船籍は船舶抵当権の実行の障害にはならないというのが一般的な考え方である(それゆえお堅い欧州復興銀行も多額の船舶融資をこの二重船籍船にしていた)。

私自身も二重船籍の船舶の抵当権実行には何回か関与したことがあるが問題は発生しなかった。東京地裁では過去に二重船籍船舶の抵当権実行に関しては裁判例も存在する。

しかしながら、船舶融資の実務では、通常は、裸傭船者及び船主から裸傭船の登記の抹消のための書類をあらかじめ金融機関が取得することによって、金融機関は万全を期するのが船舶融資の実務である。先ほどの欧州復興銀行も、Deregistration Agreementを詳細に作成することによって金融機関の権利保護を図っている。

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