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Brexitは英国海事弁護士には朗報?ロンドン海事仲裁条項は永遠か?

更新日:2017年7月5日

6月の英国の欧州連合(EU)離脱決定を受け、世の中が騒がしい。これは、マスメディアにも責任があると思う。驚くことに「世界大恐慌の前触れ」と報じた新聞もある。離脱の投票後に「国民投票のやり直しを求める署名の数が320万を超える」と報じた新聞が数多くあるが、この投票は海外の英国人以外の票やコンピューターハッカーの関与があったことを報じる善良なメディアは必ずしも多いとは言えない。要するに、世の中を煽るのがメディアの役割であると言ってしまえばそれまでなのであろうか?

英国がEUを離脱するまでにはまだ2年以上の時間がかかるようである。キャメロン首相の後任がEUへ離脱を通知し、その後2年経ってから英国はEUから正式に離脱することになる。

海運業界に限定すれば、英国のEU離脱の影響はあまり大きくはない。この点は、銀行あるいは航空業界とは大きく異なる点である。

たしかに本邦の定期船運航会社は、免許あるいは独禁法の関係で離脱後に関する対策が求められることは間違いない。また、船舶を管理する船主にとっても厳しかったEUの環境保護のための規制がEUを離脱した英国に適用されるのかどうかは関心事といえよう。ただし、海運関係者の多くが関与する海事契約に必ず存在する「ロンドン海事仲裁条項」に関しては、英国のEU離脱は不利なものではなく、EU離脱はロンドン海事仲裁をより魅力的なものにするという考え方も出されるくらいである。

これまで通りロンドン海事仲裁を使いなさい

 

多くの海事契約にはロンドン海事仲裁条項が規定されている。傭船契約、造船契約、売船契約などが代表的なものであるといえる。英国のEU離脱を受けて、ロンドン海事仲裁条項の採用をストップすべきなのか?筆者も何回か受けた質問である。答えは否(No)である。これまで通りロンドン海事仲裁条項を続けなさい、これが筆者のアドバイスである。

仲裁判断に関しては、国際的な取り決めがある。ニューヨーク条約と言われるものである。 ニューヨーク条約は世界中の多くの国が加盟している条約である。我が国もシンガポールも米国も中国も加盟国である。ニューヨーク条約に加盟している国の間では、ある国で仲裁判断が出された場合、他の加盟国でも仲裁判断の執行を行うことが可能になる。そこで、我が国の海運集会所で仲裁判断が出された場合、この海運集会所の仲裁判断は、ニューヨーク条約のおかげで米国でも簡単に執行することができるのである。

英国は、EUの前身であるECに加盟する以前からニューヨーク条約に加盟しており、英国がEUを離脱した場合であっても、ロンドン海事仲裁はニューヨーク条約のおかげで、これまでと全く変わらずニューヨーク条約の加盟国で執行することができる。要するに、英国がEUを離脱した場合であっても、ロンドン海事仲裁の法的な影響力は全く影響を受けないのである。そこで、これまで通りに、傭船契約などの海事契約においてはロンドン仲裁条項を挿入して問題ないといえる。

従来、ポンド高のために英国弁護士の報酬はたいへん高額であった。そのため、ロンドン海事仲裁は大変に高額なものであった。しかしながら、EU離脱によりポンド安が発生した場合は、物価高およびシンガポールドルの高騰により高額になったシンガポール仲裁に比べてロンドン海事仲裁が廉価なものになる時代も遠くないと言えよう。

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