海事法役に立つ はなし

コンテナ船の火災と10年裁判の行方

更新日:2016年9月1日

東京証券取引所の2部に上場しているダイトーケミックスは、今年の1月22日に「特別損失の計上、業績予想の修正、配当予想の修正に関するお知らせ」という通知を関係者に送り、総額17億54百万円の裁判敗訴による支払い、特別損失17億54百万円の計上、および平成27年度の無配を株主に報告した。

コンテナ船NYK ARGUS号の火災事故に起因した裁判において、ダイトーケミックスが完全敗訴したために発生した支払いである。

火災事故のあらまし
コンテナ船NYK ARGUS号は、平成16年に神戸から英国に向けて、多数のコンテナを積載して出港した。船舶が地中海を航行中、本船の3番ホールドから火災が発生した。この、火災及び消火活動のため、他の貨物や船舶には、大きな損害が発生した。 火災の原因であるが、火元とみられるコンテナに積載されていた、ダイトーケミックス製造のPSR-80とNA-125が原因のようであった。 その後、裁判において、PSR-80とNA-125は可燃性物質であり、荷主サイドは適切な通知を運送人に行うことによって、船舶の甲板上に積み込まれるべき性質の貨物であることが判明した。 ダイトーケミックスは運送を請け負った商社に製品の危険性を十分に説明していなかったことも判明した。

裁判の進展
火災によって損害を被った船主と荷主の保険会社は、ダイトーケミックスに対して総額で約10億円を求めて東京地裁に提訴を行った。

ダイトーケミックスは商社を通じて問題の貨物を本船に積載したが、本件貨物の適切な危険性を商社に伝えることを怠っていた。 そこで、裁判の原告は、ダイトーケミックスは製造業者としての適切な警告義務を怠ったわけであり、いわゆる製造物責任を負うべきである、と主張した。

第1審はダイトーケミックスが、驚くべきことに勝訴した。
東京地裁は、化学物質の製造業者には製造物責任を認めることはできない、という判断を行ったのである。
その後原告は東京高裁に控訴した。
しかしながら、東京高裁は、「製造業者には製造物の危険性の内容・程度及び被害発生を防止するための適切な運搬、保管方法等の取扱い上の注意事項を適切に表示し、かつ、警告を行うべき義務」があるが、ダイトーケミックスはこれを怠ったとして、総額で17億円弱の賠償の支払いをダイトーケミックスに命じた。

ダイトーケミックスは、最高裁に上告したが、最高裁は昨年末に上告を棄却し、その結果、ダイトーケミックスは冒頭のような17億54百万円の支払いを行うに至ったわけである。

裁判の教訓
ミスのない人間はいない。判決では、ダイトーケミックスの警告義務違反を非難しているが、結果論の気がする。
むしろ、私が気にするのは、このような危険物たる輸出品を扱う製造業者の賠償責任に対して、責任保険が付保されていなかったことである。その結果、ダイトーケミックスは17億円強の賠償義務を判決で負い、無配会社に転落したようである。 また、本件訴訟であるが、事故発生から10年以上が経過している。その間に、利息や為替の変動のために損害額が膨らみ、最終的なダイトーケミックスの支払い額は17億円となってしまった。海事を専門とする弁護士としては、ダイトーケミックスの責任明らかな気がする。どうして第1審の判決後和解できなかったのか、この点も残念である。
この事件では、別の裁判で、本件貨物を取り扱った商社も、船主や荷主保険会社に賠償責任を負う判決をもらっている。ダイトーケミックスは現在商社に対して求償訴訟を行っているようであるが、その行方に注目したい。

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