海事法役に立つ はなし

LNG船の傭船の実務

更新日:2016年11月1日

先月に長年の友人であるStephenson HarwoodのStuart Beadnall弁護士が来日して、海運集会所でLNGの傭船契約のセミナーを行った。筆者も参加した。数年前にやはり友人のロンドン弁護士が集会所でセミナーをしたが、レジュメの完全な棒読みであった。たまらず途中で退席して講師に”Good Reading”とメールしたことがある。それ以来の集会所のセミナーである。

LNGの傭船契約の実務
LNGの傭船契約として一般的に使われているのは、ShellLNGTime1である。このShellLNGTime1にはRIDER条項が添付されており、LNG船に関しては、RIDER条項が通常より多くなる傾向にある。そこで、LNG船に関しては、ShellLNGTime1をベースにして各社が独自の手作りの100ページ近いボリュームのある傭船契約を使用しているのが現状である 最近になって、ShellLNGTime2が発表された。ただし、ShellLNGTime2は 一般的な特約が付け加えられただけでShellLNGTime1と大きな違いはない。ShellLNGTimeであるが、1にしても2にしてもベースは評判の悪いSHELLTIMEであり、圧倒的に用船者有利な契約書ということで船主が使用する場合は大きく修正が余儀なくされる。 このShellLNGTime1であるが、長期の定期傭船だけではなく、短期の航海でトリップ傭船として使用するのが一般的なようである。要するに、ShellLNGTime1をいわば航海用船契約代わりに使用しているのである。ただし、ShellLNGTime1はあくまでも定期傭船契約であり、デマレージやレイタイムの規定はなく航海傭船契約として使用するには限界がある。そこで、本格的なLNGに特化した航海傭船契約ということで作成されたのがBIMCOのLNGVOYである。 今月は、最近BIMCOが発表したLNGVOY及びLNGの傭船契約のドラフティングに関して説明したい。

クールダウン
LNGの積荷に際し、LNGの急激な蒸発とカーゴタンクの過大な熱応力を発生させないために、積み荷開始前にカーゴタンク及び液ラインを予め冷却する作業をクールダウンという。 LNGVOYでは、船舶が積荷港に入る前にLNG船がこのクールダウンを行うべきかどうか、当事者があらかじめ選択的に取り決めをすることができる(なお、契約書でクールダウンが必要ということで取り決めしたにもかかわらず船主がクールダウンを怠った場合、船主はNORのテンダーはできるが、傭船者に損害賠償をしなくてはならないというのがLNGVOYの考え方のようである)。

BOG (Boil off Gas)
LNG船では、航海中、積み荷から自然に発生するボイルオフガス(BOG)を燃料代わりにしてバンカー代を節約する。 定期傭船契約では、本船にオフハイヤーが発生した場合は、オフハイヤー期間中のBOGは船主負担となる。通常は、定期傭船契約のRider条項にこのBOGの計算のための実に複雑な方程式があらかじめ決められている。 航海傭船契約では、航海の遅延のリスクは船主の負担となる。そこで、LNGVOYにおいては、当事者で船主が燃料として航海中使用できるBOGの上限を決めて置き、船主がそれ以上のBOGを使用した場合は、超過したBOGに関しては船主が原則として負担する立て付けを取っている。

Heel
船舶が積地に向かう際にタンク内に最低限のLNGが通常は残されている。このような残存LNGは、積地でLNG船が冷えたままの状態を保つために必要なものである。このような残存LNGをHeelという。 また、揚げ荷が終わった後にも、船舶は一定量のLNGをタンクに残すことが必要である。このような残存LNGは、LNG船が次の航海における積地までタンクが冷えたままの状態を保つために必要なものである。 ShellLNGTime1では、かかるHeelであるが、船舶のDelivery時に傭船者が船主より買い取り、Redelivery時に船主が傭船者から買い取る形になっている。要するに、バンカー代と同じ扱いである。 一方、LNGVOYでは、Heelは傭船中も船主の所有という形になっている。Redelivery時にHeelが足りない場合は、船主は用船者からLNGを買い足しすることもできる。

LNGVOYに関して
BIMCOの標準書式であるが、あまり使われたという話は聞かない。大々的に宣伝した造船契約の標準フォームであるNEWBUILCOMであるが、日本韓国中国の造船所には見向きもされずお蔵入りのようである。既存のフォームには多くの判例が蓄積されている。SHELLTIMEには多くの判例がある、一方新しいフォームには判例がなく、紛争が発生した場合は、参照する判例もなく、裁判をはじめからやり直す必要が発生する。新しいフォームはmusic to ear(耳さわりのいい話)であるが、実際に既存のフォームにとって代わるのは困難というのが海事弁護士としての正直な話である。

業務内容
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理・海難事故(船舶衝突・油濁・座礁等) ■航空機事故 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理 ■海事関係の税法問題におけるアドバイス ■船舶金融(シップファイナンス) ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 貿易あるいは信用状をめぐる紛争、石油やその他商品の売買取引をめぐる紛争を解決します。ICC仲裁やJCAA(日本商事仲裁協会)の仲裁も行ないます。Laytime、Demurrageに関してもアドバイスを行います。 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ヨット、プレジャーボートやジェットスキーなどの海難事故に対処するとともに、これらの売買などにかかわる法律問題に関してもアドヴァイスを行います。 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)

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