海事法役に立つ はなし

ペナルティー条項は無効

更新日:2017年1月1日

最近は、日本の銀行やリース会社が海外の船主に船舶融資をする機会も増えていると聞く。船舶金融の国際化である。海外の船主に船舶融資をする場合には、融資契約は英国法であることがほとんどである。

英国法はわが国とは異なる点が少なくない。この点に留意しないと思わぬけがを負うこともある。この点は、海外融資をする銀行やリース会社だけではなく、英国法で傭船契約や造船契約を締結する船主や傭船者も同様である。

契約における損害賠償額の認定において、英国法で忘れてはならない特殊な原則の一つが、「ペナルティー条項には強制力がない」という原則である。

契約の当事者の一方が契約違反を行った場合に相手方は不履行を起こした当事者に損害賠償を請求できる。契約で当事者の不履行の場合の損害の範囲をあらかじめ取り決めることもできる。売買の対象である不動産を売主が期限通り引き渡せない場合は、売主は買主に100万円賠償する、などの賠償額の取り決めである。

ただし、英国法においては、契約で片方の当事者の不履行における賠償額を取り決める場合の賠償額の金額は「過度(懲罰的)」であってはならないとされている。

例えば、1万円の時計を売買する契約において、「時計を売主が期限通り引き渡せない場合は、売主は買主に30万円賠償する」などという賠償額の取り決めは、英国法では強制力が否定され無効とされる。専門的に言えば、懲罰的な賠償額の予定は法的強制力がない、と言われるものである。

わが国の民法においては契約の自由の原則が支配し、原則として、損害賠償額を予めいくらで決めるかは当事者の自由である。契約が公序良俗に違反する場合は契約が無効になるが、英国法のように厳しくはない。

そこで、契約の中で当事者の不履行の損害賠償の金額を定める場合、損害をいくらにするのかは英国法では重要となってくる。

定期傭船契約の事案であるが、返船が遅れた場合の傭船者の賠償額を定めた条項が、ペナルティーの原則で否定された最近の判例もある。我が国の法律ではありえない判決である。英国法に基づく裸傭船契約の傭船者の解約による賠償責任の取り決め、あるいは、ローン契約の違約罰条項も極めて要注意である。

わが国の法律と異なる英国法の原則を理解することはわが国の船主、傭船者、銀行及びリース会社にとっては重要である。

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