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コーヒーブレーク 傭船料債権の譲渡を受ける必要はあるのか?

更新日:2020年1月6日

金融機関からよく質問されるのが「シップファイナンスにおいて傭船料債権の譲渡担保を取っておく必要はあるのか」という点である。回答であるが、YesでもありNoでもある。 傭船料債権の譲渡担保を取らなくても全く問題なく長年シップファイナンスを行っている顧問先の銀行もある。 確かに傭船料債権の譲渡担保を取っておけば、傭船料を船主が他の銀行の口座で受け取ってしまうことは防げるが、金融機関はすぐに船舶への抵当権実行で対抗できる。 実際、船主が融資先以外の銀行で傭船料を受け取るなどあまり聞いたことのない話である。 傭船料債権の譲渡担保を取っておく必要かどうかはあくまでも金融機関と船主との信用の問題、コマーシャル判断の問題といえよう。

しかしながら、以下の場合は、傭船料債権の譲渡担保を金融機関がとることが無難であると言えよう。

①船主、傭船者及び金融機関の間でQuiet Enjoymentの合意がある場合
この場合は、条件次第ではあるが、金融機関は簡単に船舶の抵当権の実行により債権回収を行うことができない。 船舶は抵当権実行ができないが傭船料は船主の債権者からの差し押さえなどで確保できない、という場合も発生する。 Quiet Enjoymentの合意がある場合は、傭船料債権の譲渡担保を取っておくのが無難である。

②船主に会社更生やアメリカのチャプター11などの申請の可能性がある場合
船主が会社更生やアメリカのチャプター11などいわゆる再生型の倒産手続きを取る可能性がある場合は、傭船料債権の譲渡担保を取っておくのが無難である。 船主が会社更生やアメリカのチャプター11などいわゆる再生型の倒産手続きを取った場合、金融機関は抵当権実行が簡単にできなくなる。 しかし、傭船料債権の譲渡担保がない場合、傭船料は再生中の会社に支払われ、金融機関は債権回収が簡単にできない。 金融機関は、抵当権の実行できず再生会社に使い続けさせるしか術がないが、傭船料債権の譲渡担保がない場合、傭船料は再生会社に払い込まれて銀行は傭船料からの債権回収はできないという悲惨な状況になる。 それでは民事再生の場合はどうか?理論的には金融機関は民事再生手続きを無視して抵当権実行ができる。 しかしながら、船主が民事再生手続きを行った場合、実際は、銀行としても簡単に抵当権実行はしないようである。 この場合、銀行と再生会社との交渉次第ではあるが、傭船料債権の譲渡担保がない場合、銀行にとって「抵当権は実行できないが傭船料からの債権回収はできない」という状況が実務上は発生する。 過去の今治の船主の民事再生手続きの事例を見ても、民事再生は小さな船主にも認められており、民事再生を視野に入れると、傭船料債権の譲渡担保の必要性は少なくないかもしれない。

③抵当権設定以前に傭船契約が締結されていた場合
売買は賃貸借を破るという考え方が支配する我が国と異なり、英国法では、傭船契約締結以後に抵当権が設定された状況で抵当権者が抵当権を実行した場合、抵当権者が第三者である傭船者から訴えられる場合がある。 そこで、抵当権設定以前に傭船契約が締結されていた場合において銀行が傭船料の譲渡を受けない場合、場合によっては、銀行は抵当権の実行ができないが傭船料は元利に充当できない場合が発生する。 ただし、この点は厳密にいえばという話であり、抵当権設定以前に傭船契約が締結されていた場合の処理に関しては、銀行としてもあくまでもコマーシャルマターとして処理しているのが実務のようであるし、そのようなやり方で問題ないと思われる。

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