水素燃料フェリーの日本就航を2021年に控え、
関係先と“same boat”でプロジェクトを推進

< 第486回 > Mon Mar 02 17:27:00 JST 2020掲載


シーエムビー・ジャパン株式会社
代表取締役
青沼 裕 氏


――ベルギーの総合海運グループ、CMBグループの日本法人として1981年にスタートしたシーエムビー・ジャパンの代表取締役に着任し、今年2月でちょうど2年とのことですが、これまでのご経歴についてお聞きします。1998年、新卒で第一中央汽船(以下、一汽)に入社され、その後、タンカーブローカーのシーサービスを経てカーギルに移られています。カーギルでのご担当業務についてお聞かせください。


 カーギルには2004年に入社したのですが、入社後すぐ、船舶部の東京オフィスが閉まり、船舶のアジア関連事業はシンガポールに集約され、当時はまだ右も左もわからないまま現地へ赴任となりました。2年半のシンガポール勤務では基本、フレートトレードを担当していました。その後、やはり東京にも人がいた方が良いという話になり、東京オフィスに戻った後は兼務で石炭トレードやCO2排出権取引も担当するようになりました。

 2014年からは伊藤忠シンガポールで穀物部の用船デスクの立ち上げを担当しました。2016年に帰国し、アメリカのTBSという船社の東京事務所での1年を経て、CMBに声をかけてもらいました。


――印象に残っているお仕事についてお聞かせください。


 CO2排出権取引はやっていて新鮮で面白かったですね。皆さん言いますが、こんなものが商売になるのかというところから始まって。当時、伊藤忠のアイディアで日本の電力会社向けに「グリーンコール」と銘打ち石炭と排出権のセット販売を行い、まさか!という感じでしたがこれが売れました。非常にエキサイティングで、アイディア次第で何とかなるんだと感じた体験です。

 実務面で一番面白かったのは、伊藤忠シンガポールの穀物部での用船デスク立ち上げでした。穀物部にしてみるとフレートは全くの門外漢なので、経験者のこちらの言うことを信じて取り組んでくれました。社内の煩雑な議論も馬力をもって片付けてくれました。おかげで、小さいチームでしたがだいぶ機動的なチームができたと自負しています。


――お仕事での失敗談についてはいかがでしょうか。


 カーギルに入って1年目の時、一汽時代の縁を頼って一汽経由で荷主さんにCOAを提案するチャンスを頂き、そのファームネゴをしていました。当時は日本の荷主さんではまだロングトン建ての運賃でしたが、誤って本社から指示されていたメトリクトンベースの運賃からの換算を間違えてしまい、すなわち大幅な相当ディスカウントしてファームオファーを出してしまったのです。洒落にならないくらいのロスが出てしまうので、これはクビになるとビビっていたところ、その先輩が快く(??)出し直しを許してくださったのです。首の皮一枚でつながりました。今までのサラリーマン人生で一番肝が冷えたのはその時ですね。


――ここからは話題を変え、CMBグループの水素燃料船事業についておうかがいしたいと思います。CMBでは常石グループのツネイシクラフト&ファシリティーズに水素混焼エンジン搭載の小型フェリー(80人乗り)を発注されています。2021年の日本就航に合わせて目下プロジェクトが進行中とのことですが、水素燃料船関連はCMBグループではいつ頃から取り組んで来られたのでしょうか。


 本社で16人乗りの「Hydroville」という水素燃料ボートのプロジェクトが立ち上がったのが2016年の夏、本船がデリバリーされたのが2017年末なので、水素関連に関してはグループとしてかれこれ4年くらいやっていることになります。


――環境関連の話題について日々、紙面に上らない日は無い昨今、環境対策は注目を集めるテーマだと思います。ただ環境対策と言うととかくヨーロッパ主導、という見方もありますが。


 環境問題についてはヨーロッパが先行して周りが後からついてくる。それは否定できないと思います。実際、ヨーロッパ人のメンタリティは、日本と異なりまずやってみることと感じています。ドイツの脱原発、脱石炭にも驚かされました。あのドイツがと。内実は色々あるのでしょうが、あれだけの大国がトップダウンで言い切って、出てきた問題点を順番につぶしていくというアプローチは日本とは違うと感じます。事前に問題をしっかりつぶすのが日本のやり方であり、それ自体が悪いことではなくただ単に文化の違いですが、こういう局面では差が出てしまうと感じます。


――水素はエコである一方、水素そのものをつくる時に電気や化石燃料を使うケースもありますが、その点についてはどうお考えですか。


 少なくとも現時点において船舶関係で完全にゼロエミッションを実現できる燃料は、水素かアンモニアしか無いと思います。水素はシンプルに言えば水の電気分解でできるので、グリーンな電気と水さえあればグリーンな水素が作れることになります。それ以外にもすでに日本で大量に発生している副生水素を有効利用しないのはもったいない。『資源の偏在性』という観点からも水素の活用は意味があると思っています。


――2021年に日本に就航する水素燃料フェリーの水素自体はどのように調達する見通しでしょうか。


 まだお話しできないことが多いのですが、そもそも水素が現在の燃料より高いというのはどうしようもない事実です。一方で、供給量といいますか、水素自体は色々なところから調達が可能なので、調達自体が大きな障害になるとは思っていません。


――水素燃料の利用に伴うインフラ投資や、その他、クリアするべき点についてはいかがでしょうか。


 船に水素燃料の供給を確保するためのインフラ投資は少なくともこのプロジェクトにおいては問題にならないと考えています。ただLNG燃料船と同様で、海上での水素の燃料利用にはバンカリングのルール作りをしていかないといけない。しかし仮に水素が漏れたとしても有害なものでは全くなく、LNGに比較しても実ははるかにハードルは低い。きちんと時間と手数をかけてやっていけば問題になるところではないと思います。


――環境対策で各社、今後の対策が求められる現状ではあるものの、決定策はまだ確定していない、そんな状況でCMBグループが先がけとなって取り組んでいる印象を受けますが、いかがでしょうか。


 2008年比でCO2を50パーセント削減させる「IMO2050」に向けて議論が盛んになっているものの、現状、切り札自体は無いと思います。そのような中で、我々が解決策を確立するという大上段な話ではなく、積極的にその課題に関わることで見えてくる景色、聞こえてくる情報、持ち込んでもらえる機会があると信じています。そのためにも我々は先頭集団の中で走りたいと思っています。社長のアレクサンダーの言葉で印象に残っているものに、CMBは水素燃料事業を独り占めして自分たちが巨額の利益を得るためにやっているのではなく、みんなで取り組むべき問題であり一緒にやる仲間を探してやっていきたいというのがありますが、同じ文脈だと思っています。

 今回日本でやっているプロジェクトもプロジェクト参加各社、手弁当で頑張っています。いわゆるsame boatの考え方でいきましょうよ、と。1社たりとも自分たちだけがぼろ儲けしようという考えの会社はいません。それがこういうプロジェクトをやる時には大事だな、と感じています。


――水素燃料フェリーは内航船ですが、就航路線はもう決まっているのでしょうか。


 現在、最終的な検討段階です。


――発表が待ち遠しいですね。ところで、本社CEOのアレクサンダー氏も水素燃料船事業を日本のプロジェクトとしてやりたいという意向だったのでしょうか。


 そうです。2018年、入社の1、2か月後にアントワープの本社に行き、水素燃料ボートの「Hydroville」が実証船として動いていました。実際に乗せてもらって、CEOのアレクサンダーから日本でもやりたいという話がありました。歴史的にCMBにとって日本はヨーロッパ同様に重視しているマーケットです。その上に日本政府は水素社会の実現を、と言い切っている。ヨーロッパ以外でここまで言い切っている国はないので、ロジカルに日本でもやってみようよという流れになりました。実際に日本でこれだけ関係各社からサポート頂けているわけで、全く正しい発想だったのだな、と思います。加えて、スウェーデンのグレタさんの影響で、この半年、世の中の流れが変わっているのをリアルタイムに感じています。CMBも現在進行形で、私がやっている日本関連の案件も、本社でやっているものについてもこれからアナウンスするプロジェクトがいくつも出てきます。多くの方々にご支援いただきたいと思っています。


――是非、環境対策において海運界を引っ張って行ってもらいたいです。


 


――続いて話題はがらっと変わりまして、休日はどのように過ごされていますか。


 体を動かすのが好きで、ゴルフやサッカー、マラソンをしています。走る方は毎朝出勤前に走っているのですが、それ以外にも業界の人と一緒に大会に参加したりしています。ゴルフは、、、頻度と腕前はご想像にお任せしますが(笑)、業界には自分を含めてお好きな方が多いのでこちらも趣味と実益を兼ねたスポーツになっています。 サッカーは息子が通っていた小学校のグラウンドで、生涯スポーツがテーマの歴史あるチームで汗を流しています。80代のおじいさんや、体育会系上がりで若かりし頃はセミプロでやっていたような方まで、和気あいあいとしたチームで、毎週30名以上が練習に来ています。


――「座右の銘」を教えてください。


 座右の銘、というほど肝に銘じているわけではないですが、伊達政宗の辞世の句 “曇りなき 心の月を さきたてて 浮世の闇を 照らしてぞ行く” という一首が心に響くので、何となく自分の心のありようもそうなれたら良いな、と思っています。実際は程遠いのですが。


――続きまして、思い出に残っている「一皿」をエピソードとともにお聞かせください。


 シンガポールのバクテーです。「黒系」と呼ばれるマレーシア風と、それに対して「白系」のシンガポール風とあるうち、シンガポール風が好きですね。塩ラーメンにニンニクをぶちこんだようなあっさりした味。二日酔いにやさしい、と言われています。飲んだ翌朝、食欲がない時でもバクテーなら食べられるし、スペアリブなのでけっこうエネルギーもあります。今でもシンガポールに出張に行くと絶対に1、2回は行きます。


――心に残る「絶景」はありますか。


 最近だと、ご縁がある船主さんを訪ねて長崎県の島原方面まで訪ねて行って、ちょうど天気が良い日でした。何もないひらけたところから見える海がえらいきれいな景色だな、と。つい仕事をさぼりたいなと思ってしまうくらいでした。


――島原のどちらですか?


 原城跡です。頻繁にお邪魔させていただいている瀬戸内海も大好きなのですが、原城跡は趣が異なり、建物が何も残っていなく更地で、何もないところから見渡せる開放感のある海の風景が印象的でした。長崎まではよく出張で行きますが、その先まではなかなか足を延ばせずという感じでしたので、役得というか、嬉しかったです。



【プロフィール】

(あおぬま・ゆう)
1974年生まれ 東京都出身 
1998年上智大学法学部卒業、第一中央汽船 入社
シーサービス、カーギル、伊藤忠シンガポール、米国船社TBS勤務を経て、2018年2月より現職

 ■CMB (https://www.cmb.be/en/home


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