海事法役に立つ はなし

韓国でのフェリー事故 -セウォル号の賠償問題に関する法律的考察- (1/2)

更新日:2014年6月

2014年4月16日午前8時58分頃、韓国仁川の仁川港から済州島へ向かっていた、清海鎮海運所属の大型旅客船「セウォル号」が、全羅南道珍島郡の観梅島沖海上で転覆し、沈没した。事故が発生したセウォルは、修学旅行中の安山市の檀園高等学校2年生生徒325人と引率教員14人の他、一般客108人、乗務員29人の計476名が乗船し、車両150台余りが積載されていた。


死者・行方不明者300人を超える大惨事の責任を、セウォル号を運航していた船会社はどう償うのか。この点は、韓国でも注目されているようである。 「朝鮮日報」によれば、セウォル号は1人あたり約3千450万円、全体で1億ドル(100億円超)を上限とする賠償責任保険に加入していたとのことであるが、別のルートでは、セウォル号の賠償保険金額はその10分の1の10億円という話もある。この場合、保険金は、1人あたり約345万円の賠償額という話になる。


某写真週刊誌では、私の先輩にあたる海事弁護士が以下の通り解説している。
「日本と韓国では計算法が違うと思いますが、日本の場合だと、賃金センサスという厚労省の賃金の統計調査を用いて、逸失利益を算定します。今回は、まだ働いていない高校生の被害が多かったわけですが、この計算式にあてはめると、16歳男性の場合で約4千360万円になる。それに慰謝料をブラスすれば、平均6千万~7干万円にはなるでしょう。韓国ならその半分、3干万~3千500万円というところでしょう」。


上記計算によると亡くなられた方が仮に300人ならトータルで船会社の賠償額は90億~105億円という計算になる。遺族への賠償だけで、保険金はきれいさっぱりなくなってしまうのだ。 ここで問題となるのが、船主の責任を制限する船主責任制限法の存在である。

船主責任制限法とは



 

船長等の船員が船舶の運航に際して第三者に損害を加えた場合、船主は損害賠償責任を負うのが原則である。しかし、海運業に関しては、古くから船主の損害賠償責任を制限する制度(有限責任制度)が認められていた。
これはなぜか?船主責任制限法の我が国での第一人者であり、海事法の重鎮である重田晴生教授は以下の通り分析する。

① 船長の代理権の範囲がきわめて広汎にわたっているから、これにつき船主に無限責任を負わせるのは酷であること
② 船長や高級船員については、国家が海技免状の制度にもとづいてその資格を公認していること
③ 航海中の船員の行為について船主が指揮監督をなすことは困難であるから、船主に無限責任を負わせるのは
  酷であること
④ 一国の海運政策的見地つまり危険性がきわめて大きい海上企業を保護奨励すること
⑤ 古くから認められているという沿革
⑥ 船舶所有者は船員がその職務を行うにあたり他人に加えた損害については無過失責任を負っていること
⑦ 一国だけがこの制度を廃止することは海運のもつ性格(国際性)上困難であること
⑧ この制度を廃止しても、船舶ごとに有限会社または株式会社を設立することにより、責任制限の効果をあげうる
⑨ 船主責任制限法に実は債権者保護の側面がある

かっては、この船主の損害賠償責任を制限する制度は、財産権を保障する日本国憲法に違反するという考え方もあったようであるが、我が国の最高裁判所は、「船主責任制限制度は憲法違反ではない」と判断するに至っている。

業務内容
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理・海難事故(船舶衝突・油濁・座礁等) ■航空機事故 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理 ■海事関係の税法問題におけるアドバイス ■船舶金融(シップファイナンス) ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 貿易あるいは信用状をめぐる紛争、石油やその他商品の売買取引をめぐる紛争を解決します。ICC仲裁やJCAA(日本商事仲裁協会)の仲裁も行ないます。Laytime、Demurrageに関してもアドバイスを行います。 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ヨット、プレジャーボートやジェットスキーなどの海難事故に対処するとともに、これらの売買などにかかわる法律問題に関してもアドヴァイスを行います。 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)

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