海事法役に立つ はなし

英国海事弁護士事情

更新日:2016年10月3日

久しぶりに先月はシルバーウィークを利用してロンドンに行ってきた。ブレクジットで沈んでいるかと想像したが、相変わらずの建設ラッシュで活況であった。聞くところによると、ポンド安で逆に海外からの投資が増えているそうである。いかなる奇策を講じても円高に振れる我が国にとっては皮肉な話である。今回は、急変する英国海事弁護士に関して触れてみたい。

傭船契約、船荷証券、造船契約、売船契約、サルベージ契約など多くの海事契約は英国法に準拠している。英国には多くの保険会社やPIクラブも事務所があり、英国の海事仲裁は世界の中心である。英国弁護士は、海事の分野で最も重要といっても過言ではない。

急増するブティック系海事法律事務所
この点を取り扱っているのが、TradeWindsの9月22日号である。海事弁護士業界で最近の大きな話題は、伝統的な法律事務所であるINCE&CO法律事務所からの大量な弁護士の離脱である。詳細は分からないが経営にかかわる問題がかかわっているようである。30年以上も前からINCE&COを使用している筆者にとっても心配な話である。 ある大手海事法律事務所のパートナーと飲みに行ったことがある。パートナー会議で、顧客に配るボールペンのデザインをどうするかでまる1日を費やしたそうでげっそりしていた。組織が大きくなればすべてが硬直化する。仕事もしないマネージ担当の有名大学出身の弁護士が、売れっ子弁護士をしかりつけるなどの話も聞いたことがある。 硬直化した大手法律事務所に満足しない弁護士たちが独立して少人数の自由な法律事務所を設立する風潮は今後も止まらないと思われる。

地方海事法律事務所の活躍
我が国と同様に英国でも都市と地方の物価の格差は大きい。ロンドンと英国の地方都市の物価の格差は極めて大きい。そこで、最近では、地方都市に本拠を写し、コストを下げることによって競争力を増やす法律事務所がブームとなっている。 大手法律事務所でもCLYDE&CO法律事務所やHILL DICKINSON法律事務所は事務所の機能の一部を地方に移すことによって競争力を上げている。

海事弁護士受難時代の到来~社内弁護士の急増
9月15日号のTradeWindsでは海事弁護士の扱う海難事件などが激減していることが報じられている。海運不況になると海難事件も減ることは歴史が語るところである。 しかしながら、それ以上に海事弁護士にとって深刻な問題は、海事弁護士の主要な依頼者であるPIクラブや保険会社が、海事法律事務所から若手中堅の海事弁護士をリクルートし、事件が発生した場合は海事法律事務所に事件処理を依頼せず、自前で事件処理を行うようになったことである。 この結果、英国の海事法律事務所の取り扱い事件は激減したそうである。この傾向は今後も継続すると思われ、我が国の海事弁護士業界にも波及すると思われる。海事弁護士不況は恒久的な気がする。

今後の方向
英国海事弁護士の仕事は減っている。地方海事法律事務所とブティック法律事務所の台頭により、競争は激化している。大手海事法律事務所も、税務、独占禁止法や政府の制裁など多様な分野に活動範囲を広げることによって生き残りを図っている。英国ではすでに弁護士報酬の激しいディスカウントが始まっているようである。海事弁護士受難時代の到来である。今後は海事法律事務所の合併も増えると思われる。 依頼者にとっては、各法律事務所の特徴を理解し、事案に応じた海事弁護士の依頼が必要になると思われる。 ちなみに、英国海事法律事務所の詳細はLegal500のサイトが最も信用のあるものであり、参考になる(http://www.legal500.com/assets/pages/rankings/rankings-home.html)。   

主要な英国の海事法律事務所
大手海事法律事務所
Hill Dickinson
Reed Smith
Ince & Co
Clyde
Stephenson Harwood
Holman Fenwick Willan
ブティック系法律事務所
Bentleys, Stokes and Lowless
MFB
BDM
Waltons Morse
Campbell Johnston Clark
MAYS BROWN SOLICITORS
シップファイナンス系
Stephenson Harwood
Watson Farley & William
Hannaford Turner
地方海事法律事務所
Mills & Co
Birketts

業務内容
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理・海難事故(船舶衝突・油濁・座礁等) ■航空機事故 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理 ■海事関係の税法問題におけるアドバイス ■船舶金融(シップファイナンス) ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 貿易あるいは信用状をめぐる紛争、石油やその他商品の売買取引をめぐる紛争を解決します。ICC仲裁やJCAA(日本商事仲裁協会)の仲裁も行ないます。Laytime、Demurrageに関してもアドバイスを行います。 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ヨット、プレジャーボートやジェットスキーなどの海難事故に対処するとともに、これらの売買などにかかわる法律問題に関してもアドヴァイスを行います。 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)

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