第11回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介③:船主に傭船契約違反があった際の賠償範囲(Carrying Chargeの負担)
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年9月6日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介③:船主に傭船契約違反があった際の賠償範囲(Carrying Chargeの負担)

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

船主に傭船契約違反があった際の賠償範囲(Carrying Chargeの負担)
(2003) 620 LMLN 2(2)
NYPEベースの定期傭船において、傭船契約上、本船は最初の積荷港ですべてのホールドにつき現地当局が満足するようクリーンな状態にしなければならないと定めていました。
また、傭船契約を締結する前に、傭船者は穀物の売買契約を締結しており、合意した期間までに本船が有効なNORを提出しない場合、傭船者はcarrying charge(保管費用)を負担することとしていました。
本船は、積荷港の現地当局の検査に通ることができずにオフハイヤーとなり、その後クリーニング及びハッチカバーの修理が行われました。 本船を、穀物を積荷するために適した状態におくことができなかったことから、船主には傭船契約違反が認められました。
本件で問題となったのは、傭船者が売買契約上負担していたcarrying chargeについても、船主は責任を負うかという点でした。 すなわち、carrying chargeは①生じうる損害として船主が合理的に考慮しておくべき損害(その場合は賠償請求が認められます)なのか、 ②生じる可能性はゼロではないが、限られたマイナーな場合にのみ生じるような損害(その場合は間接的過ぎる損害として賠償請求は認められません)なのかが争点となりました。
仲裁判断は、傭船契約では当該傭船者の売買契約上の義務については定められていないことなどを指摘の上、傭船者が売買契約上負っているcarrying chargeに関する責任を船主が考慮することを期待できず、 傭船契約違反によってcarrying chargeが損害として発生することを船主が合理的に予見することができないと判断しました。結果として、船主には傭船契約違反があるものの、 carrying chargeは間接的過ぎる損害(too remote)であるとして、傭船者のcarrying chargeの請求を認めませんでした。
傭船契約がどのように定めているかによりますが、船主が予見できない間接的損害については契約違反があったとしても賠償責任を追わないことを明示しており、船主にとって好ましい仲裁判断であるといえます。

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