第12回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介④:傭船料増額条項の解釈(abtの表記漏れ)
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年10月5日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介④:傭船料増額条項の解釈(abtの表記漏れ)

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

傭船料増額条項の解釈(abtの表記漏れ)
(2022) 1109 LMLN 4
本船はNYPEベースの定期傭船で、ワントリップの傭船に出されました。傭船料は1日あたり原則7,400米ドルとされていましたが、船主と傭船者の交渉の過程で、 傭船者は傭船開始時に740mtのHSFO(高硫黄燃料油)を必要としていることを伝え、そのためには本船引渡し前に200-300mtのHSFOを追加で供給する必要がありました。そこで、 これを反映するため、傭船契約には「owners are investigating possibility of supplying additional 200-300mt if possible then hire to be US$8,150 (船主は追加の200-300mtの供給の可能性を検討しており、可能となった場合傭船料は8,150米ドルとなる。)」というUplift条項(傭船料増額条項)が設けられました。 なお、その他の条項で、「abt(約)」とは5%前後のマージンを指すことを定義していました。
本船の引渡し時、本船はHSFOを688.60mt保有しており、その内訳は、①当時から保有していた493.60mtと、②当日追加で供給した195.00mtでした。追加したHSFOは200-300mt (傭船料増額条項では「約」200-300mtとは明記されていなかった点がポイントとなります)の範囲内の量ではなかったものの、船主は、「additional 200-300mt」には黙示的に 「abt(約)」が含まれており、「追加の約200-300mt」の趣旨であって、5%のマージンの範囲内であるとして、傭船料増額条項が適用されると主張しました。
仲裁判断は、船主の解釈を認めました。すべての燃料の量に関しては「abt(約)」を付すという意図があったと認められ、「abt(約)」の記載漏れがあったとしても 同文言を補って読むことが契約のミスの正しい是正方法であると判断しました。加えて「abt(約)」を補って読むことが実務的かつビジネスとしての整合性がとれると判断されました。 結果として傭船料増額条項が適用され、船主は8,150米ドルの傭船料を請求する権利が認められました。
船主の主張した解釈が認められ、傭船料増額条項が適用された事例であり、船主にとって好ましい仲裁判断であるといえます。他方、「abt(約)」の3文字が記載漏れただけで紛争に 発展した事例でもあり、細心の注意を払って契約を作成する必要があることを再認識させられる事例です。

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