第13回 サンクションと裸傭船契約上のPurchase Option行使(判例紹介)
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年11月7日

サンクションと裸傭船契約上のPurchase Option行使(判例紹介)

最近、ロシアのサンクションに関する判断がなされたため、今回ご紹介いたします。

サンクションと裸傭船契約上のPurchase Option行使
Pola Logistics Ltd v GTLK Europe DAC and Others – [2022] IEHC 501 (25 August 2022), High Court of Ireland

本件裸傭船契約の関連当事者は次のような会社でした。
Pola
(傭船者)
キプロス法人でロシア市民が実質的支配権を持つ。
GTLK Malta
(船主)
マルタで設立された特別目的事業体(SPV)で、GTLKが完全親会社。
GTLK
(船主の親会社)
JSC(ロシア運輸省が単独株主であるロシア法人)が支配権を有するアイルランド法人。

2018年から2020年にかけて、PolaはGTLK Maltaから複数の船舶につき、120カ月間の裸傭船を受けました。当該裸傭船契約にはPolaがいつでもPurchase Option (購入オプション)を行使することができることを定めていました。

2022年4月8日、GTLK及びJSCは共にEUのサンクションの対象となりました。その結果、GTLKが所有するすべての資産は凍結され、GTLKは2022年12月9日から資産や物資、 サービスを調達することができなくなりました。
また、2022年8月2日、米国のサンクションも課されましたが、OFACが発行した許可により、通常の取引及び取引を終了させるために必要な取引は2022年9月1日までは許されていました。
したがって、Polaがサンクションに違反なくPurchase Optionを行使するためには、2022年9月1日前に権利を行使したことを示さなければなりませんでした。

2022年8月10日、Polaは2022年8月30日付けで船舶を購入する旨のPurchase Optionの行使を通知しました。同購入はアイルランド中央銀行の 承認を条件としていました。しかしながら、GTLK Maltaの登記上の事務所はサンクションの影響により機能しておらず、Polaは書類を送達することが難しい状況でした。
今回の法的手続は、PolaがPurchase Optionを行使できるようにするため、特定履行を緊急で求めたものです。なお、GTLK Maltaからは異議の申立てはなされず、 裁判所の出した判断に対して可能な限り従うことに同意していました。
仲裁判断は、特定履行の申立てを認めました。Polaは有効にPurchase Optionを行使しているとされ、またGTLK Maltaは船舶に担保等が付されていないことを保証していました。
この判断を出すにあたって、次の点が指摘されていました:①サンクションの対象となった企業に対する賠償命令は、当該企業の資産が凍結している以上、現実味がないこと、 ②Purchase Optionを行使できないことはPolaの経済性にインパクトを与えかねないこと、③船舶を購入する契約上の権原があったこと、④Polaの違法性や不正を示す証拠はないこと、 そして⑤GTLK Maltaが裁判所の判断に従うことに同意したことです。

サンクションを受けた船主側も協力的であったこともありますが、相手がサンクションの対象となったことが判明した後のPurchase Optionの行使が認められたものであり、参考になるかと思います。

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