第14回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑤:コロナとオフハイヤー
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年12月7日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑤:コロナとオフハイヤー

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

コロナとオフハイヤー
(2022) 1113 LMLN 2

本船はNYPEベースの定期傭船契約で、定期傭船に出されていました。2020年4月12日に積荷港に到着した後、ボースンにコロナの陽性反応がでたため、本船は港湾当局により隔離となり、 本船は2020年5月1日に隔離から解放されました。本船返船後、船主は傭船料残額を請求したところ、傭船者は、2020年4月12日から2020年5月1日の間オフハイヤーであったと反論したという事案です。

2020年3月16日三等機関士が医療記録で乾いた咳の症状を記録。
2020年4月12日本船が積荷港に到着し、NORを提出。
2020年4月16日三等機関士がコロナの症状の一つを発症したため、港湾当局は、本船が着岸し、すべての船員が健康であることを確認してからでなければ検疫済証を発行しないこととなった。
2020年4月17日船員のコロナの抗体検査を実施したところ、ボースンにコロナの陽性反応がでた。
結果、港湾当局は本船を14日間隔離することした。
2020年4月22日船主の主張により、ボースンに対してPCR検査を実施することとした。
2020年4月27日ボースンのPCR結果は陰性であったものの、港湾当局は、抗体検査の結果は「感染の初期段階の表れ」かもしれないと考え、隔離措置を解除せず。
2020年5月01日検疫済証発行。

定期傭船契約では114条で、「他の条項の定めにかかわらず、港湾当局等が鳥インフルエンザまたはその他同種の病気へ対応するため本船、貨物、若しくは船員に対してなんらかの措置を課したことによって、 本船にタイムロスが生じた場合はオフハイヤーにはならず、傭船者の負担となる。ただし、本船引渡し前の船員の病歴を原因として当該措置が実施された場合は船主の負担となり、オフハイヤーとなるものとする。」 という旨の定めがありました。

この114条の解釈が争われ、①114条本文に従ってオンハイヤーとなるのか(船主主張)、それとも②船員の病歴(三等機関士の乾いた咳の記録)を原因として隔離措置が実施されたのであって、 114条但書に従ってオフハイヤーとなるのか(傭船者主張)が問題となりました。

仲裁判断は、①4月17日の抗体検査で三等機関士は陰性であったことから、当局はそれ以降三等機関士の症状には関心を持たず、ボースンの陽性反応に関心を持っていた、また②仮に4月17日の抗体検査でボースンも 他の船員同様陰性反応だった場合は当局が本船の隔離措置をとることはなかったであろうと分析しました。そして、当局の隔離措置は、三等機関士の過去の病歴ではなく、4月17日のボースンの陽性反応に起因するものであるとし、 114条但書の適用は認めず、隔離期間中オンハイヤーであったと判断しました。

依然として続くコロナ禍に関連して、港湾当局の隔離措置の期間オフハイヤーとなるかどうかにつき判断した事例です。定期傭船契約中の合意条項を解釈するにあたって、隔離措置が三等機関士の病歴を理由とするものか、 それともボースンの陽性反応を原因とするものかを、分析的アプローチをとって検討しており、参考になるかと思います。

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