第15回 BIMCO CII条項
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年1月13日

BIMCO CII条項

  1. CII条項の発表・CII制度の開始
  2. CII合意値・船主と傭船者の協力
  3. 傭船者の義務
  4. 船主の義務
  5. このままの運行だとCII合意値を達成できないような場合
  6. 注意点・補足

1.CII条項の発表・CII制度の開始


2023年1月1日から開始したCII制度(燃費実績格付け制度)に対応させるため、2022年11月にBIMCOは定期傭船契約向けのCII制度対応条項を発表 しました。

CII制度概要

CII制度は、総トン数5,000トン以上の外航船を対象に、1年間の運航実績をもとに検証して、AからEまでの5段階評価を行う制度です。E評価または3年連続D評価となった船舶は、翌年度「改善計画」を提出し、主管庁の承認を得ることが義務付けられます。なお、評価基準は年々厳しくなっていきます。

CII制度のもと、CII計算値は、

      CO2排出量     
DWT(またはGT) x 航海距離

で計算されるため、CII計算値を改善するためには、分母にある「航海距離」を上げつつ、「CO2排出量」を上げないことが重要になります。 例えば、減速や積載貨物を削減すればCII計算値は良好となり、長期間港湾停泊すればCII計算値は悪化します。

つまり、船舶の運航計画がCII計算値にダイレクトに影響を与えます。傭船者が航海指示を出す定期傭船契約のもとでは、傭船者の指示がCII制度に適合するようにしなければなりません。
新しく発表されたBIMCOのCII条項は、定期傭船契約をCII制度に対応させるためのものであり、今回、このCII条項の重要な点につき解説したいと思います。

2.CII合意値・船主と傭船者の協力

CII条項に合意する際には、(i)項で船主・傭船者間で各年のCII合意値(Agreed CII)を定め、合意します。

なお、BIMCOはCII合意値はCII基準値(Required CII:CII制度のC評価の中央値)
以上とすることを推奨しています。

留意点として、合意するCII合意値はあくまで数値(gCO2/DWT(またはGT) x nmileで表記される)であって、A~Eのレーティングではありません。

CII制度に対応するためには、船を管理する船主と航海指示を出す傭船者が相互に協力する必要があります。
そこで、(a)項、(b)項で、船舶がCII制度を遵守しなければならないことを確認の上、相互に協力して、①船舶のエネルギー効率向上に繋がる発見・ベストプラクティスを共有し、②CII制度への船舶の遵守状況や今後の航海の計画に役立つようなデータを日々共有・報告することの誠実義務が定められています。

3.傭船者の義務

(c)項(i)号では、傭船者に次の2つの義務を課しています。

1 傭船者は、CII制度に沿った形で船舶を配船・運航しなければならない。
2 傭船者は、傭船期間中のCII実績値(C/P Attained CII)がCII合意値(Agreed CII)を超えさせてはいけない。

また、傭船者がCII条項で定める義務に違反した結果、船舶または船主に損害等を与えた場合、傭船者は船主に賠償しなければならないことは(j)項で明記されています。

4.船主の義務

(f)項では、船主の義務について次のとおり定めています。

1 船主は、船舶の燃料・エネルギー消費を効率化するために相当の注意を尽くさなければならない。(例:船舶設備のメンテナンス、航法装置やウェザールーティング・航海最適化システムなどの航海支援サービスを最大限活用するなど)
2 船主は、船舶の日々の実際の燃料消費量をモニタリング・計算し、必要なデータすべてを傭船者に提供しなければならない。
3 船主は、エネルギー効率管理計画書(SEEMP:Ship Energy Efficiency Management Plan)を遵守しなければならない。

また、船主は船舶の引渡時に、引渡時のCII実績値(Delivery Attained CII:その年の1月1日から引渡時までのCII実績値)を傭船者に伝える必要があります((d)項(iv)号)。

5.このままの運行だとCII合意値を達成できないような場合

このままの運行だとCII合意値を達成できないような場合どうすればよいのでしょうか?

この点、(g)項で次の手順が定められています。

1 データ上、傭船期間中のCII実績値がCII合意値を逸脱する場合:船主は傭船者に事前警告を出す。
2 当該警告にもかかわらずCII合意値を逸脱し続け、傭船者がCII条項の義務違反となる合理的可能性がある場合:
船主は、傭船者に対して次の航海の計画を書面で提出するよう要求し、傭船者は当該要求から2営業日以内に当該計画を提出する。
3 提出された計画では傭船者がCII条項の違反となると船主が合理的に示せる場合:
船主は、計画の提出から2営業日以内に傭船者にその旨伝える。
4 船主及び傭船者は、傭船期間中のCII実績値がCII合意値に近づくための調整した計画に2営業日以内に合意するよう協力する。

また、調整した計画に合意するまでの期間、①船主は傭船契約上の義務に違反することなく傭船者の指示に従わないこと、または②船舶を減速、若しくはCII合意値に沿うような実績値となるような指示を出すよう傭船者に要求することができます((g)項(iii)号)。

6.注意点・補足

なお、CII条項の注意点として、①CII条項上の「傭船期間中のCII実績値(C/P Attained CII)」と②CII制度上のCII実績値は別物であることは理解しておく必要があります。

「傭船期間中のCII実績値」は、オフハイヤー期間中の消費燃料と航海距離は計算から除外(定義ご参照)されます。これに対して、 CII制度上のCII実績値は、その船舶の1年間全体の運航実績をもとに計算されます。

したがって、CII条項を採用した際は、①CII条項上の「傭船期間中のCII実績値」と②CII制度上のCII実績値の双方をそれぞれ管理し、チェックしていく必要がある点は注意が必要です。

なお、このBIMCOのCII条項については、当事務所(マックス法律事務所)で和訳を作成しており、日本海運集会所が発行している海事法研究会誌に和訳を掲載する予定(2023年2月号予定)ですので、こちらも併せてご確認いただければ理解がさらに深まるかと思います。

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