第16回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑥:スピードクレーム-潮流の影響
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年2月2日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑥:スピードクレーム-潮流の影響

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

スピードクレーム-潮流の影響
(2018) 1013 LMLN 1

事案概要:
本船はNYPEベースの定期傭船契約で、定期傭船に出されていました。傭船契約には速力保証があり、傭船者は本船の速力が保証速力に満たないとして、スピードクレームを行った事案です。 スピードクレームにおける本船の速力を計算する上で、本船にプラスとなる潮流の影響を加味するかどうかについて判断されました。

保証速力及び傭船者が依拠したウェザールーティング会社のレポートによる本船速力は次のとおりでした。
保証速力約14ノット
(5%の誤差が認められており実質的には13.3ノットの保証)
良好な気象(Good Weather)下の本船速力13.59ノット
プラスとなる潮流の影響(1.07ノット)を差し引いた本船速力12.51ノット

船主の主張:
傭船契約の速力保証条項には、「no negative influence of currents / swell(潮流/うねりによる悪影響がない場合とする)」とありました。
船主は、この規定は、ネガティブな潮流・逆潮が原因で本船の保証速力に達しなかった場合に船主に防御権を与えるものであり、反対に、本船がプラスとなる潮流のおかげで保証速力に達した場合について定めるものではなく、 傭船者はプラスとなる潮流の影響を差し引くことをできないと主張しました。

傭船者の主張:
傭船者は、船主は本船が約14ノットで航行できることを保証したのであり、もしプラスとなる潮流の助けなくして当該保証速力に達することができないのであれば、 本船自体は保証した内容を実現できていないことに他ならないと反論し、プラスとなる潮流の影響を差し引くべきと主張しました。

仲裁判断:
仲裁判断は、傭船契約の条項の文言からは、保証速力に達したかどうかの判断において排除されるのはあくまで「逆潮」のみであり、仮に潮流によるプラスの影響を受けた場合も計算から排除する 意図であればそのような条項にしたはずであるのに、そうしなかった点に着目しました。
傭船者は、速力保証は本船自体の能力の保証であると主張するものの、そうではなく、傭船契約ではプラスとなる潮流を含む良好な気象下での本船のパフォーマンスについて保証したのであり、 プラスとなる潮流を含んだ速力を計算すべきと判断しました。


コメント:
最終的には傭船契約の文言によりますが、「adverse current(逆潮)の影響を受けた場合は計算から排除する」と定めてある場合に、プラスとなる潮流の影響については船主有利なまま計算できると判断しており、 船主にとって有利な仲裁判断といえます。

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