第17回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑦:長期滞在によるHull Fouling-清掃費の負担
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年3月8日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑦:長期滞在によるHull Fouling-清掃費の負担

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

長期滞在によるHull Fouling-清掃費の負担
(2019) 1033 LMLN 2

事案概要:
本船はNYPEベースの定期傭船契約で、定期傭船に出されていました。本船が港で長期滞在した結果発生したHull Foulingの清掃費の負担について判断された事案です。

傭船契約には、「本船が港または錨地で25日間以上の長期滞在した際、本船の速度・燃費に影響を与えるexcessive marine growth(過剰な生体付着)が生じたと考える合理的な理由がある場合に、 船主はダイバー検査を実施できる。ダイバー検査により、長期滞在を原因とするexcessive marine growthが船体に確認された場合、船主は傭船者の費用と時間によって船体を当該港または錨地で清掃する。 ただし、当該港で清掃が実施できない場合、清掃は次の港で傭船者の費用と時間によって実施する。」という旨の条項がありました(Prolonged Stay条項)。
傭船者の指示により、港で25日間以上滞在することになったところ、当該港では視界不良・荒波により、当該港でmarine growthの検査・清掃を行うことはできませんでした (ただし、船長が船体を撮影し、船長はmarine growthが発生したと判断)。
当該港での荷揚げ後、本船は船主に返船されました。次の傭船に従って本船が次の港に向かう途中、 本船は離路してmarine growthの検査・清掃のための港に寄りました。検査の結果、船体の一部にmarine growthが確認されました。

その結果、船主は、検査・清掃のために喪失した時間、燃料費、清掃費等を傭船者に請求しました。

争点:
争点は2つあり、①Prolonged Stay条項の文言を厳格に解釈し、(清掃ではなく)検査が長期滞在した港で実施されなかった場合にもProlonged Stay条項の適用はあるか、②excessive marine growthの意味は何か、 について争われました。

仲裁判断:
仲裁判断は、①について、返船前に長期滞在した港で検査することが絶対的な条件であると解釈するのは現実的ではなく、特に清掃については次の港での実施も認めていたことを踏まえると、 実務的な事情により返船後に次の港で検査せざるを得なかったことをもってProlonged Stay条項の適用は妨げられないと判断しました。
そして、②について、excessive marine growthとは、「本船の運航性能にある程度影響を与える生体付着、または、次の清掃までの期間を大きく短縮する生体付着」を意味するという見解を採用し、 証拠によれば本件ではmarine growthにより本船の0.33ノットの速度低下が見受けられたことから、excessive marine growthに該当すると判断しました。

コメント:
本件は、清掃については長期滞在した港で実施できない場合は次の港で実施できることが明言されている一方で、検査については同様の文言がなかったため争われましたが、仲裁では柔軟な解釈が行われ、 船主によるProlonged Stay条項に基づく請求が認められました。船主にとって好意的な判断といえますが、そもそも条項の作成段階からこのような疑義が生じないよう注意深く作成しておく必要があることの 重要性を感じさせられる仲裁例であるともいえます。

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