第21回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑪:返船後のHull Fouling清掃-傭船料相当額の賠償
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年8月17日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑪:返船後のHull Fouling清掃-傭船料相当額の賠償

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

返船後のHull Fouling清掃-傭船料相当額の賠償
Smart Grain Shipping Co Ltd v Langlois Enteroprises Ltd (The “Globe Danae”)
[2023] EWHC 1683 (Comm)

事案概要:
本船はNYPEベースの定期傭船契約で、インドからブラジルへの一航海のために定期傭船に出されていました。

当該定期傭船では86条で、「傭船者が、熱帯海域で25日間、非熱帯海域で30日間、本船を港に滞在させたことを起因とする本船の速度の低下/燃費の増加について船主は責任を負わない。 その場合、プロペラ等の船底の清掃は最初の作業の機会に、常に傭船者の費用と時間で実施する(In such a case, underwater cleaning of hull including propeller etc. to be done at first workable opportunity and always at Charterers’ time and expense)。…」旨定めていました。

本船が荷揚港であるブラジルに到着した後、荷受人が貨物を拒絶しました。その結果、本船は熱帯海域の港に42日間もの間滞在することになりました。最終的には、貨物は荷揚げされましたが、傭船者は、傭船期間中に本船の船底の清掃を実施することなく返船しました。
船主は、本船を次の傭船に出す前に、船底の清掃を実施することになりました。

本件では、船主が傭船者に対して、船底の清掃中の時間の傭船料相当額を請求したことが問題になった事案です。

争点:
船主は傭船者に対して、86条が船底の清掃は「常に傭船者の費用と時間」と定めていることから、傭船終了後の清掃であっても、(実際の損害の有無にかかわらず)傭船料相当額を傭船者に請求できると主張しました。

これに対して、傭船者は、86条が定める「傭船者の…時間」とは、傭船期間中に清掃が実施されたときに適用される(清掃期間中もオフハイヤーとならずにオンハイヤーとなる)ものであり、傭船期間が終了した後は傭船料の支払いはなくなるのであるから、船主が実際に時間の喪失による損害を被ったことを証明しない限りは賠償責任を負わない、と主張しました。

判決:
裁判所は、86条は傭船者に対して傭船料相当額を賠償することを要求しており、「最初の作業の機会」とは傭船期間中・傭船期間後とを問わないと判断しました(すなわち、本船は清掃なしに返船も可能だが、その場合傭船者は清掃期間中の傭船料相当額を船主に賠償することになる)。
その結果、船主の傭船者に対する清掃期間中の傭船料相当額の請求は認められました。

コメント:
返船後の船底の清掃であっても、「always at Charterer’s time and expense(常に傭船者の費用と時間)」の条項を理由に、(実際の損害が生じたことの立証をせずとも、)傭船料相当額の請求が認められた判決であり、船主にとって有利な判例です。
ただし、あくまで本件の条項の文言の下で出された判断であり、例えば「Charterers would compensate the Owners for any “loss of time” resulting from the cleaning(清掃から生じた「時間の喪失」につき傭船者は船主に賠償する)」といったような文言であったら結論は変わり得たことを示唆しており、微妙な表現の違いで結論は変わり得ることは注意が必要です。

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