第22回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑫:本船クレーンの性能の問題
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年9月12日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑫:本船クレーンの性能の問題

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

本船クレーンの性能の問題
(2018) 995 LMLN 2

事案概要:
本船は一航海の定期傭船に出されたところ、傭船者が荷役中の本船のクレーンの動きが遅いと主張した事案です。

傭船者はクレーンの技術仕様書のデータを船主から入手し、その後現地のエンジニアに対してクレーンの性能を調査するよう指示しました。エンジニアの報告書では、本船の装置の証書・書類には問題はなく、本船の装置は良好な状態にあるとする一方で、本船のクレーンは巻き上げ時及び旋回時の動作が仕様書と比較して遅いとも記載されていました。

そこで、傭船者は、当該船舶が荷役にかかった時間と、他の船舶が同じ港で同じ貨物の荷役にかかった時間とを比較して計算し、荷役の際に1.89日分の時間の損害を被ったと主張しました。

これに対して船主は、クレーンの動作が遅いことを否定し、時間がかかった理由はステベドアが手配したクレーンの運転士が非効率的だったためであると反論しました。さらに、傭船契約では、本船のクレーンの性能または動作速度を保証した条項はないことなども主張しました。

仲裁判断:
仲裁判断では、傭船契約上、本船のクレーンの性能または動作速度を保証した条項はないとの船主の指摘は正しいとしました。さらに、オフハイヤー条項が適用されるようなクレーンの故障はなく、傭船書が依拠できるのは船主の一般的なメンテナンス義務のみ(絶対的な義務ではなく、合理的なタイミングで合理的な措置を取ればよい)であるとしました。
その上で、傭船者のエンジニアの報告書には船舶の装置は良好な状態にあり、証書・書類も問題ないとされており、船主の本船のクレーンのメンテナンス義務違反を十分に立証するような証拠は提出されなかったと判断されました。
結果として、傭船者の請求は却下されました。

コメント:
本船のクレーンを使った荷役が本来よりも時間がかかった事案において、船主の義務違反が認定されなかった事案であり、船主にとって好ましい判断でした。
本件に限らず、仮に本船側の事情により何らかの損害が発生した場合であっても、すぐに船主負担であると思い込まずに、傭船契約をよく見て、どのような条項が問題になるのかを整理し、その上で当該条項が適用されるのかを冷静に判断していくことが重要であるといえます。

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