第23回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑬:コロナとオフハイヤー(2)
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年10月11日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑬:コロナとオフハイヤー(2)

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

コロナとオフハイヤー(2)
(2023) 1142 LMLN 1

事案概要:
本船はNYPEベースの定期傭船契約で、定期傭船に出されていました。
本船がパナマ運河を通過する直前に船長が病に伏して死亡してしまったことから、パナマ当局によってコロナの感染が疑われ、船員全員のPCR検査結果がでるまでパナマ運河を通過することができなくなりました。そこで、傭船者がオフハイヤーを主張したという事案です。
争点としてはいくつかありましたが、今回はコロナと関連の深い争点に絞って紹介したいと思います。

2021年5月22日パナマ運河通過のための必要書類を提出し、5月28日の通過を予約(5月28日02:00まで)。しかし、その後船長が病に伏す。
2021年5月24日船長の病気を代理店に報告。
2021年5月25日船長死亡。
2021年5月26日船員のPCR結果が出るまで本船は待機するよう当局が指示。
2021年5月28日本船パナマ運河に到着。
船長そして船員全員のPCR検査で陰性を取得。
2021年5月29日パナマ当局による本船待機の指示から解放。
2021年5月31日本船はパナマ運河を通過。

傭船契約条項:
傭船契約には次のような条項が含まれていました。
15条「本船の完全な稼働を阻害する、人員の不足・怠慢・ストライキ、…その他の事由によって時間を喪失したときは、傭船料の支払いは、それによって喪失した期間について中断する。」
55条「…船員の病気・事故、…または、関連当局/司法手続による捕獲/拿捕(capture/seizure)、若しくは、滞船のおそれ(threatened detention)によって時間が喪失した場合、そのような状態になったときから、復帰して同距離に位置し、航海を再開するまでの間、傭船料は停止するものとする。」

傭船者の主張:
傭船者が行ったいくつかの主張の中には15条と55条に依拠するものが含まれていました。
すなわち、船員のPCR検査の結果が出るまで本船の待機をパナマ当局が命じたのは、15条の「本船の完全な稼働を阻害するその他の事由(by any other cause preventing the full working of the vessel)」及び55条の「滞船(detention)」に該当し、オフハイヤーが成立する、というものです。

仲裁判断:
仲裁判断は、まず、15条については、本件は15条が列挙するオフハイヤー事由には該当しないと認定しました。
次に、55条についても、文言を素直に読めば、船員にPCR検査結果を出すよう要求することは、(結果的にその間本船は待機しなければならないとしても、)捕獲/拿捕(capture/seizure)、若しくは、滞船のおそれ(threatened detention)には該当しないと判断しました。
仲裁判断は、その他の傭船者の主張も認めず、結果として傭船者のオフハイヤー請求は却下されました。

コメント:
コロナの感染が疑われPCR検査の結果が出るまで本船が待機した事案で、傭船者が主張するいずれのオフハイヤー事由にも該当しないと判断したものであり、船主にとって有利な判断です。
なお、本事案の船主も触れていましたが、15条のオフハイヤー条項で「その他の事由(any other cause)」にwhatsoeverがついて「その他のいかなる事由(any other cause whatsoever)」となっていた場合は、オフハイヤー事由が幅広く認定されてしまうことになるため、結論は異なっていたかもしれません。定期傭船契約を締結する際に、オフハイヤー条項でこの「whatsoever」が入っているか否かはオフハイヤー紛争の結論を左右し得る文言であるため、注意が必要です。

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