第24回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑭:オフハイヤーの開始時期
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2023年11月10日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑭:オフハイヤーの開始時期

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

オフハイヤーの開始時期
(2015) 922 LMLN 5

事案概要:
本船はNYPEベースの定期傭船契約で、定期傭船に出されていました。
6月22日にNueva Palmiraで荷揚を完了し、その後の航海計画としてはNecocheaで積荷し、Mombasaに運送する予定でした。しかし、パイロットとタグの支援のもとNueva Palmiraから出港する際に、船体がバースと接触することで、ホールドが損傷しました。なお、仲裁人の判断としては、この事故自体に船主に過失はなしとされました。
その後本船は、ホールドが損傷したまま次の積荷港のNecocheaに向かいましたが、同港で本船が積荷バースに入ることが遅延したため、傭船者がオフハイヤーを主張したという事案です。

6月22日Nueva Palmiraから出港時、ホールドに損傷発生。
6月24日Necocheaに到着しNORを発行。
しかし、貨物が準備できていなかったことや、荒天等で入港できなかったことから本船待機。
7月3日港から、次に入港可能な状態になった時にバースに入るよう指示を受ける。船主が積荷前にホールドを修理する必要があることを伝えたところ、港は当該バースでの修理を拒否。
7月4日気象が落ち着き、港は入港可能な状態になる。
7月10日別のバースで本船を修理し、積荷ができる状態となって2回目のNORを発行。
7月17日他の船が積荷バースを使用していたことから、すぐにはバースに入ることができず、本船が積荷バースに入れたのは7月17日になってからであった。
傭船者は、上記の経緯のもと、Necocheaに到着し最初のNORを発行した6月24日から2回目のNORを発行した7月10日までの間、オフハイヤーが成立すると主張しました。

仲裁判断:
仲裁では、オフハイヤーがいつから開始するかにつき検討し、次の①、②、③の時点では、本船の全面的な稼働の阻害(preventing the full working of the vessel)はなかったとして、オフハイヤーの成立を否定しました。
6月22日-6月24日:事故後からNecochea到着までの期間については、航海は要求通り実施できていたため、本船の全面的な稼働の阻害にはあたらない。
6月24日-7月3日:Nueva Palmira到着後、荒天等を理由に本船待機の指示を受け、これを実施していたため、本船の全面的な稼働の阻害にはあたらない。
7月3日-7月4日:バースに着岸せよとの指示に従えない状態であったが、7月4日までは気象が原因でどのみち着岸できなかったため、本船の全面的な稼働の阻害にはあたらない。
結果として、7月4日の港が入港可能になった時点ではじめて本船の全面的な稼働が阻害されたとして、7月4日から7月10日までの間につき、オフハイヤーの成立を認めました。

コメント:
一般的なオフハイヤー条項のもとでは、オフハイヤーが成立するためには、「本船の全面的な稼働が阻害されたこと(preventing the full working of the vessel)」が必要となります。
本件は、本船の「全面的な稼働が阻害された」のはいつからか、という論点について、それぞれの期間毎に本船が要求されていたことは何かを分析的に検討して判断したものであり、結果としてギリギリまで本船は待機することが当時受けていた指示であるとされ、船主にとって有利な結論となりました。
オフハイヤーの成否を検討する上で役立つケーススタディといえます。

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