第26回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑯:荷役の責任の所在-under the supervision and direction of the Captain
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2024年2月2日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑯:荷役の責任の所在-under the supervision and direction of the Captain

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

荷役の責任の所在-under the supervision and direction of the Captain
(2010) 793 LMLN 4

事案概要:
本船は、NYPEベースの定期傭船に出されました。

傭船契約の8条では「傭船者は、船長の監督及び指示の下(under the supervision and direction of the Captain)、すべての荷役を、自らのリスク及び費用により行うものとする(これには積荷、積み付け、トリミング、ラッシング、保全、ダンネージ、アンラッシング、荷揚げ、タリーを含むがこれに限られない)」と定められていました。

Steel Pipeの54本をJebel Aliで荷揚げすべきであったところ、本船から荷揚げされずに、Dammanまで運送されてしまい、荷揚げの責任の所在について争われた事案です。

当事者の主張:
傭船者は、通常のNYPEの文言では荷役の責任は傭船者にあるものの、本件傭船契約では、「under the supervision and direction of the Captain」というように「and direction」が追加されており、これにより荷役の責任は傭船者から船主に移転したと主張しました。
これに対し船主は、and directionは何かあったときに船長が荷役オペレーションに口を出す権利を認めたものに過ぎず、荷役の責任を傭船者から船主に移転するものではないと反論しました。

仲裁判断:
仲裁は、NYPEフォームにおける荷役の責任の所在については過去の判例から考え方が確立しており、通常の文言のままだと荷役の責任は傭船者にあるが、「under the supervision and responsibility of the Captain」と「and responsibility」が追記された場合は、責任の所在は傭船者から船主に移転することを確認した上で、次のとおり判断しました。
本件では、船主と傭船者は「and responsibility」という文言には合意せずに、「and direction」という文言にのみ合意している。荷役責任を移転させるには「and direction」は文言として不十分であり、実際に責任を移転するためにはより強い表現が必要である、と判断しました。

コメント:
NYPEの条項の下での荷役の責任の所在については、元の文言のunder the supervision of the Captain(傭船者責任)となっているか、under the supervision and responsibility of the Captain(船主に責任が移転)と修正されているかで結論が変わることは広く知られています。
本件は、and responsibilityではなく、and directionという文言が加筆された事案であり、and directionでは責任を移転するには文言として不十分であると判断されており、船主にとって有利な仲裁判断です。

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