第27回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑰:Hull foulingと返船時の状態
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2024年3月7日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑰:Hull foulingと返船時の状態

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

Hull foulingと返船時の状態
(2017) 986 LMLN 3

事案概要:
本船は、NYPEベースのトリップ定期傭船に出されました。
本船は、2014年6月16日に石炭を積んでフィリピンを出港し、2014年7月1日にマレーシアの港に到着しました。その後、本船は2014年7月31日に荷揚げを開始するまでバース待ちをしなければならず、荷揚げは2014年8月5日に完了しました。

港に到着してから3週間が経った2014年7月22日、船長は本船への生体付着(marine growth)を報告しました。2014年7月29日、傭船者は、短期間海で航海するよう指示しましたが、船長はそのような短期航海の効力に疑問を呈し、船長は傭船者に対して指示を検討しなおすよう要請しましたが、傭船者からは返答がありませんでした。結果として、本船は傭船者の指示には従いませんでした。

その後、船は別の傭船者に次の傭船に出されましたが、船主は当該次の傭船者からパフォーマンスクレームを受けました。また、当該次の傭船終了後、本船は中国でHull Cleaningを実施しました。

本件は、本船がマレーシアで生体付着(marine growth)が発生し、傭船者は、傭船契約で定められていた「like good order and condition(良好な状態)」で、また「the same condition (including vessels hull/bottom) as she was on delivery(引渡時の本船の状態と同じ状態(本船の船体/船底を含む))」で返船する義務に違反したとして、船主が傭船者に賠償請求した事案です。

当事者の主張:
傭船者はいくつかの反論を行いましたが、そのうちの一つは、「船長は2014年7月29日に傭船者の短期間海で航海する旨の指示に従うべきであった」、というものでした。

仲裁判断:
仲裁は、傭船者に対して短期間の海での航海では何も効果がない旨報告し、傭船者に指示を確認するよう要請したことにより、船主は正当化されると判断されました。仮に船長が、傭船者からの確認がないまま短期間の海での航海を行った場合、今度は燃料を無駄にしたとして賠償請求を受ける可能性もあったのであり、船長は短期間の航海を実施するにせよ、しないにせよ、どちらを選んでも両負けの状態(no-win situation)に置かれていました。
さらには、専門家の意見でも、傭船者が指示したような短期間の海での航海ではhull foulingに対して効果をあげる可能性は低かった、という回答でした。
以上を踏まえ、仲裁判断では、傭船者から短期間の海での航海を実施しなくてもよい、という確認がなくとも、船長は当該航海を実施しなかったことは咎められるべきではないと判断され、船主の請求は認められました。

コメント:
傭船者の指示に従わなかったことをもって安易に船主の請求を棄却せずに、当該傭船指示がhull foulingに対して効果的かどうか、また、仮に船長が指示を実行していた場合はどうなっていたかなどを検討した上で、結論を導き出しています。
結論は至極妥当なものですが、合理的な行動をとった船主が、正しく評価され勝利した事案であり、船主にとって有利な事例といえます。

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