第28回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑱:貨物の一部を残した状態での返船
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2024年4月9日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑱:貨物の一部を残した状態での返船

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

貨物の一部を残した状態での返船
(2010) 798 LMLN 3

事案概要:
本船は、NYPEベースのトリップ定期傭船に出され、セメントをインドネシアから米国西海岸まで運送し、7月16日から7月22日にかけて荷揚げを実施しました。
その後、本船はホールドクリーニングのためサンフランシスコに向かいました。
船主は、通常想定されるよりも多くの貨物が残ったままであり、傭船者は貨物を荷揚げする義務に違反しており、通常のホールドクリーニングを超えた清掃について余分な費用と時間が発生したと主張しました。

傭船契約では、41条及び44条でそれぞれ概ね次のように定められていました。
41条:セメント条項…傭船者は、セメント貨物の荷揚げ後、自身の時間と費用でセメント貨物を積荷する前の状態になるよう清掃を実施することを約束する。傭船者は、自身の時間と費用で、ホールドからすべての貨物の残りをホールドから清掃する責任を負う。…
44条:傭船者は、ホールドを清掃した状態で返船しなければならないが、返船時に6,000米ドル支払うことで、ホールドを清掃せずに返船することができる

41条と44条の条項が整合しておらず、本件はセメント貨物について定められた41条と一般的なホールドクリーニング条項である44条のどちらが適用されるかについて検討された事案です。

当事者の主張:
船主は、本件トリップ定期傭船はセメントのみを運送する契約であったものの、44条はセメント以外の貨物に適用される条項であり、セメント貨物については41条のみが適用されると主張しました。
これに対して傭船者は、本件トリップ定期傭船はセメントのみを運送する契約であったことから船主の主張どおりだと44条が適用されることは一切なくなるが、44条を無視すべきではないと反論しました。

仲裁判断:
まず、仲裁では、傭船者はセメント130mtを残したままであったと認定され、この量は荷揚げが本当の意味で完了したとは言えないと評価されました。
その上で、44条が適用されるかどうかが検討されました。
41条は、セメント貨物の航海の終わりの貨物の荷揚げ及び清掃、並びに本船の状態に関する傭船者の特別の義務について明確に定めた条項である。41条と44条の矛盾については、一般条項である44条ではなく特別条項である41条によって解決されるべきであり、本件に44条は適用されない、と判断されました

コメント:
本件傭船はセメント貨物の運送のみを対象とするものでしたが、一般条項の適用を否定し、特別条項のみを適用して解決した事案であり、船主にとって好ましい判断となりました。
本件条項に限られず、一般条項と特別条項の考え方について参考になる事例だと思われます。

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