第29回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑲:当局の指示により荷役が中止した際のオフハイヤーの成否
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2024年5月9日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑲:当局の指示により荷役が中止した際のオフハイヤーの成否

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

当局の指示により荷役が中止した際のオフハイヤーの成否
(2008) 734 LMLN 1(2)

事案概要:
本船は、NYPEベースのトリップ定期傭船に出され、大豆をブラジルからエジプトのEl Dekheilaまで運送しました。
6月21日、本船はバースに着岸し、荷揚げを開始しましたが、6月25日、ホールド5にて、変色及び大豆の異臭等が発見されました。問題のなかった貨物の荷役は同日の12時30分まで続けられましたが、同時刻をもって、当局から指示を受けた港長からの命令により荷役は中止されました。
その後本船は、バースシフトや錨地への移動を行いつつ待機していましたが、7月3日、傭船者の新たな指示により本船はイスラエルへと出航しました。

そこで、傭船者が、荷揚げを中止した6月25日からイスラエルへと出航した7月3日までの期間はオフハイヤーであると主張した事案です。

なお、傭船契約では、15条及び56条でそれぞれ概ね次のように定められていました。
15条:「本船の完全な稼働を阻害する、…その他一切の(whatsoever)事由によって時間を喪失したときは、傭船料の支払いは、それによって喪失した期間について…中断する。」(通常のNYPEのオフハイヤー条項にwhatsoeverが追記
56条:「本傭船契約期間中、本船がいずれか当局(司法か否かを問わない)によって拿捕、留置、差押、または遅延された場合、…当該理由によって喪失した時間は…オフハイヤーとして扱われるものとする。」

仲裁判断:
仲裁では、6月25日以降、本船は傭船者が要求していたことを実施(分析結果が出るまで及び損傷した貨物をどうするか検討されるまで待機)していたのであり、同期間、ホールド5の貨物を荷揚げすることは禁止されていたものの、本船そのものは荷揚げする能力は有していた。そして、本船が留置されていたり、出港を禁止されていたりしたわけではなく、港長の指示の効果はEl Dekheilaでの残りの貨物に荷揚げが禁止されていたに過ぎない、と認定されました。
その上で、15条については、本船は、物理的にも法的にも、完全な稼働を阻害されていないとされました。そして、そもそも「本船の完全な稼働の阻害」という要件を満たさない以上、15条のオフハイヤー事由に「whatsoever」が追記されていても影響はなく、15条に基づくオフハイヤーは成立しないと判断されました
さらに、56条についても、本件では、「拿捕、留置、差押、または遅延」がなされていないため、オフハイヤーは成立しないと判断されました

コメント:
通常のオフハイヤー条項のもとで、オフハイヤーが成立するためには、①本船の完全な稼働が阻害されたこと、②オフハイヤー事由に該当すること、及び③時間の喪失があること、の3つの要件を満たす必要があります。そして、列挙されたオフハイヤー事由の最後が「any other cause whatsoever」と「whatsoever」が追記された場合、オフハイヤー事由が広く認められやすくなってしまいます。
本件でも「whatsoever」が追記されていましたが、①「本船の完全な稼働が阻害されたこと」を満たさないため、「whatsoever」の追記にかかわらず、オフハイヤーの成立が否定された、というものになります。
仮に、「whatsoever」が追記されてしまっていたとしても、オフハイヤーの成否は要件ごとに検討することで、オフハイヤーの成立を否定する余地があることを示す、船主にとって有利な判断となります。

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