第33回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑳:船主の荷揚港でのNOR通知義務
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2024年9月9日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介⑳:船主の荷揚港でのNOR通知義務

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

船主の荷揚港でのNOR通知義務
(2024) 1160 LMLN 2

事案概要:
本船は、NYPEベースのトリップ定期傭船に出されたところ、荷揚港での船長のNORの通知の遅れが問題となった事案です。
本船は1月22日に荷揚港に到着し、船長が傭船者の代理店に対して、本船は投錨してバースの指示を待っている旨連絡したところ、代理店は、NORを提出するよう指示しましたが、本船は1月27日までNORを提出しませんでした。
そこで、再傭船者が、有効なNORは1月27日に提出されたのであって、1月22日にNORが提出されたことを前提としたデマレージの支払いを拒みました。

当事者の主張:
傭船者は、「荷揚港で適切なタイミングでNORを提出しそびれることは、傭船契約8条違反を構成する」と主張しました。

対して船主は、「船長がNORを提出しなかったことは、意図的なものではなく、不幸な事故であった。本船は荷揚げの準備はできていたのであり、傭船契約8条違反にはならず、本船船長の行為は、合理的な船長の行為を下回るものではなかった。」と主張し、また、「傭船者の代理店はNORの提出の催促を含めた本船への支援を行うべきであるが、これを怠った」点も指摘しました。

仲裁判断:
仲裁は、まず一般論として、定期傭船契約の下では、船舶が合意した地点に到着し、荷役の準備ができた際に有効なNORを提出する義務があり、これは本船のデリバリー時に限られず、傭船期間中、積荷港・荷揚港に到着する際継続してNORを提出する義務を負い続けるものであると示しました
ただし、通常の定期傭船契約では、どのようにしてNORを提出するかについては、定めがなく、各港でどのようにしてNORを提出するか傭船者が明確な指示を船長に出さなければならないとしました。
そして、本件においては、傭船契約8条では、船長は傭船者の支持に従う旨定めているものの、荷揚港に到着後に具体的にどのような手続をとるべきかについては定めておらず、そのような具体的な指示がない状態では、傭船者に対して目的地に到着したことを報告することで十分であった、と判断しました
また、船長がNORを1月22日に提出しそびれたことについては、本船が港に到着後、色々な作業を行わなければならず、港では気象が荒れており船や船員の安全に注視していたこともあり、意図的なものでも過失を構成するものでもない、と認定しました。その中で、傭船者の代理店は船長にNORの提出を催促するか、船長に代理してNORを提出すべきであったとも言及しています。

コメント:
NORの提出方法について、具体的な指示を受けていない場合、傭船者に対して準備ができたことを報告することで十分であったと判断されており、また、船長の故意・過失の判断にあたって、船長の他の業務に追われていたことを斟酌されてもいるため、船主にとって有利な判断となります。
ただし、一般論としてですが、本船のデリバリー時に限られず、傭船期間中、港に到着した際はNORを提出する義務があるとも判断されており、その点においては注意が必要です。

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