
第34回 船主に不利な重要判決・仲裁例紹介①:パイロットの責任による事故と安全港
船主に不利な重要判決・仲裁例紹介①:パイロットの責任による事故と安全港
船主にとって残念ながら不利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。
(2023) 1129 LMLN 2
事案概要:
本船はNYPE1981ベースでトリップ定期傭船に出されていました。
本船が中国の潮州の荷揚バースに向かう途中、パイロットが操船をしていたところ、本船は水路から外れて浅瀬に入って座礁し、本船は損傷しました。
なお、座礁した浅瀬については、本船が用意していた紙の海図及び電子海図には記載がなかったものの、当該浅瀬について記載されている海図も市場には存在しており、また、パイロットは当該浅瀬について知っていました。
そこで、船主は、パイロットは適格ではなかったのであり、そのようなパイロットがいる港は非安全であったと主張し、損害賠償を傭船者に対して請求しました。
仲裁判断:
まず仲裁は、次のとおり、本件事故の原因として、パイロット及び本船船長に過失があったと認定しました。
- パイロットは水路の水深制限(浅瀬の存在)について知っていたものの、安全な水路から外れないよう操船することに失敗した。
- 本船は適切な海図を用意しておらず、これによって、本船はパイロットの操船により水路から外れたことの重大性を知覚することができず、結果、船長はパイロットの操船を効果的にモニタリングすることができなくなっていた。
コメント:
通常の定期傭船契約では、パイロットの行為は船主が責任を負うことになっており、船主は傭船者に対して、パイロットの行為について責任を追及することはできません。ただし、パイロットが適格性を欠き、それが港の特性であるといえる場合には、傭船者が指示した港は非安全港であったとして、船主は傭船者に対して非安全港のクレームを行う余地があります。
本件は、まさにパイロットの適格性を理由に非安全港のクレームを行ったものの、一度限りの過失のような場合においては、適格性は否定されないとして請求が認められなかったため、船主にとって不利な判断となります。
船主としては、パイロットが事故を起こした場合には、パイロットが適格性を欠くとして、非安全港のクレームを行う余地があることは念頭におきつつも、本船がパイロットの指揮下にある場合において、パイロットに任せっぱなしにせずに、船長らがしっかりとパイロットの行為について監督するようにしておくことが重要と思われます。
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