
第35回 船主に不利な重要判決・仲裁例紹介②:Rider Clauseによるオフハイヤー
船主に不利な重要判決・仲裁例紹介②:Rider Clauseによるオフハイヤー
船主にとって残念ながら不利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。
(2019) 1042 LMLN 1
事案概要:
本船はNYPE1946ベースで定期傭船に出されていました。
当該定期傭船契約にはRider Clauseの101条で次のような条項がありました。
「本船は本傭船契約の期間中、積荷港及び/または荷揚港で有効なものを含め、すべての安全規則及び要求を遵守するものとする。本船が当該安全規則または要求に従わなかった場合、当該安全規則及び要求を遵守するまでオフハイヤーとする。船主は即座に是正措置をとるものとし、ステベドアの待機時間及びその他発生した費用は船主負担とする。」
本船が荷揚港である米国西海岸の港に到着した翌日、本船は、ステベドアを代理するステベドアの組合International Longshore and Warehouse Union (ILWU)が実施したギアインスペクションに落ち、すべてのクレーンを修繕する必要があると報告を受けました。
そこで、ステベドアは、修繕が完了するまで本船での作業を拒絶しました。したがって、再傭船者はかかる修繕を手配することとなり、その後ステベドアは作業を開始しました。
傭船者は、本船がインスペクションに落ちてから、パスし、作業が開始されるまでの間について、主に101条を根拠にオフハイヤーを主張しました。
これに対して、船主はクレーンに問題はなく、ステベドア/ILWUの作業の拒否は合理的でないと主張しました。
仲裁判断:
仲裁は、本船はステベドアが実施する作業に適用される約款であるPacific Coast Marine Safety Codeに違反していると認定しました。そして、船主は当該Codeは「安全規則及び要求」ではないと主張したものの、当該CodeはILWUの組合員が従事する際の米国西海岸の安全作業実務・条件を規律するものであり、少なくとも「安全要求」には該当し、実務的には「安全規則」ともいえると判断しました。
さらに、Codeに違反しており、かつ、実際に高価な修繕作業も実施したことを踏まえれば、ステベドアが作業を拒否したことも非合理的とはいえないとし、結果として本件はオフハイヤーが成立すると判断しました。
コメント:
本件はRider Clauseで特別に合意したオフハイヤー条項に基づきオフハイヤーが成立した事案で、船主にとって不利な判断となります。
通常のオフハイヤー条項に加え、Rider Clauseで別途オフハイヤーに関する条項をいれることがままありますが、船主にとって想定以上にオフハイヤーが成立する範囲が広がってしまうリスクがありますので、合意をするかどうか、合意をするとしてもその文言には細心の注意が必要となります。
(なお、本件に関しては、101条とは別に、船主は通常のオフハイヤー条項に基づく請求も行っていましたが、仲裁判断では101条でオフハイヤーを認め、通常のオフハイヤー条項についての判断は下していません。通常のオフハイヤー条項でもオフハイヤーが成立した余地は残ります。)。
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