
第36回 船主に不利な重要判決・仲裁例紹介③:特定の港で要求される基準のMooring Ropeの費用負担
船主に不利な重要判決・仲裁例紹介③:特定の港で要求される基準のMooring Ropeの費用負担
船主にとって不利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。
(2001) 572 LMLN 3
事案概要:
本船はNYPEベースで定期傭船に出されていました。
傭船者は本船をチリの港に向かうよう指示したところ、当該港では船舶は220メートルの長さのMooring Ropeを14本以上保有することが要求されていました。しかしながら、本船は、本船の設計及びクラスの要求に従って197メートルのMooring Ropeを5本しか保有していませんでした。
そこで、本船が着岸するために要求されるMooring Ropeを借りる必要が生じ、船主と傭船者のどちらが負担すべきかについて紛争が発生しました。
当事者の主張:
船主は、主な主張として、本船は本船の設計及びクラスで要求されるMooring Ropeは用意しており、今回のチリの港で要求される特定の長さのMooring Ropeを14本以上保有するという要件は通常ではなく、特別な航海といえ、2条に定める「any extra fittings requisite for a special trade(特別な航海のために必要な特別な備品)」にあたり、傭船者が負担すべきと主張しました。
これに対して、傭船者は、このようなMooring Ropeの本数を要求されることは特別なものではなく、船主は「傭船期間中、船体、機器及び備品を十分な稼働状態に置く」ことに合意していたのであるから、今回の港で要求されるMooring Ropeの基準を満たしていなかった船主は傭船契約違反が認められるなどといった反論をしました。
仲裁判断:
まず仲裁は、2条に定める「any extra fittings requisite for a special trade(特別な航海のために必要な特別な備品)」はその前後の文脈を加味して解釈すべきであるとし、当該規定はDunnageなど貨物の積荷などに関する条項であると判断しました。そこで、当該規定は、追加のMooring Ropeには適用されないと判断されました。さらに、2条は他にも「all other usual expenses except those before stated(その他前記のものを除く一切の通常の費用)」は傭船者が支払うと規定するものの、Mooring Ropeは1条で船主が負担すると規定している「甲板及びその他必要な船用品」に該当することから、傭船者が負担するその他の通常の費用にも当たらないと判断しました。
そして、チリで要求されたMooring Ropeは特別な要求とはいえないとして、チリで必要となったMooring Ropeの費用は船主が負担すべきであると認定しました。
コメント:
特定の港で要求されたMooring Ropeの費用負担について、通常NYPEの1条・2条の費用負担の条項からは傭船者負担とすることができず、船主負担として認定されたものであり、船主にとって不利な判断となります。
なお、本件で仲裁判断は、チリで要求されたMooring Ropeは特別な要求とはいえないと判断しているため、港で要求される基準がより特殊・異質なものであった場合は判断が変わる可能性もあるかもしれません。
しかしながら、本件のように特定の港で通常とは異なる船用品が要求される場合に関して、費用負担の合意条項を策定することも検討する価値があるといえるでしょう。
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