第4回 コロナと定期傭船(仲裁例紹介)
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年2月18日

コロナと定期傭船(仲裁例紹介)

現在コロナに関連する揉め事も少なくありません。コロナと定期傭船に関連した仲裁例が出たため今回簡単に紹介したいと思います。

パイロットの体温測定及び乗船拒否
(2022) 1099 LMLN 1

NYPEベースの定期傭船において、荷揚港でパイロット3名が本船に乗船する際、三等航海士が非接触型赤外線温度計でパイロットの体温を計ったところ、 全員船主の社内ポリシーの体温を超える37.5℃を示しました。そこで、船長は水銀温度計で再計測することを求めましたが、パイロットはこれを拒み、下船しました。 パイロットの会社は、船長はパイロットが乗船する前にパイロットステーションで計測した結果に依拠すべきであったとして、船主から正式な謝罪があるまでパイロットを派遣せず、本船はそれまで孤立しました。 そこで、傭船者はパイロットが下船してから新たなパイロットが派遣されるまでの期間についてオフハイヤー及び傭船者の指示に従わなかったことを理由とする8条違反の主張を行いました。 仲裁判断では、オフハイヤーの主張については最終的な判断はせず、しかし、傭船者のパイロットを乗船させ、本船をバースに停泊させるという指示は合法的なものであり、船長の、パイロットを乗船させ続けることを拒絶し、 バースへと船を進めなかったことは船主の傭船契約違反(8条違反)にあたると判断しました。この判断の中で抽象的なコロナのおそれを理由に傭船契約の履行を拒絶することはできないこと、 傭船者への通知や合意なく自身の一方的な検温ポリシーの実施は認められないことに言及しています。結果として傭船者に、失った期間の傭船料相当額と燃料費の回収を認めました。

船員の体温及び検疫
(2022) 1099 LMLN 3

NYPEベースの定期傭船において、船員の一人の体温が37.4℃であったため、荷揚港で検疫官の許可が下りるまで本船は待機する必要がありました。 傭船者は、当該リスクは船主が負うものであり、船員の病気は15条が定めるオフハイヤー事由となる「deficiency of men(人員の不足)」または「any other cause(その他の事由)」に該当し、 検疫のための待機期間はオフハイヤーが成立すると主張しました。さらに傭船者は、「船員は、すべての寄航港のワクチン接種・衛生上の規則を遵守し、対応する証書を本船に具備し、検疫済証を取得できるようにする。」 と定める45条違反を予備的に主張しました。
仲裁判断では、37.4℃は人間の健康上正常の範囲であるため船員が不健康・病気であると判断する合理的理由はなく、検疫官の判断は過剰なものであったとして、15条の定めるオフハイヤー事由は認めませんでした。 また、45条違反の主張については、寄航港のワクチン接種・衛生上の規則の違反、要求される証書の不備を根拠づける証拠がないとして主張を認めませんでした。

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