第6回 オフハイヤー:船主が勝利した重要判決の紹介
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年5月2日

オフハイヤー:船主が勝利した重要判決の紹介

  1. オフハイヤーとは?
  2. その他本船の完全な運用を阻害する事由
  3. 判例紹介

1.オフハイヤーとは?

⇒ 一定の事由が発生した場合に、傭船者は傭船料を支払わなくてもよいとする傭船契約当事者間の取り決め

オフハイヤーは傭船契約上合意した当事者間の取り決めなので、オフハイヤーがない傭船契約も理論的にはあり得ます(ただし実務上は基本的にはオフハイヤー条項が定められています)。
どのような場合にオフハイヤーが成立するかも、傭船契約でのオフハイヤー条項の定め方次第となりますが、例えば一般によく使われるNYPE書式の下では次の条件を満たす必要があります。

Preventing the full working of the vessel
(本船の完全な稼働を阻害すること)
オフハイヤー条項で定めるオフハイヤー事由が発生したこと
Net loss of time
(実際に傭船者が期間を喪失したこと)

なお、「Preventing the full working of the vessel」(本船の完全な稼働を阻害すること)とは、 本船がそのとき傭船者から要求されている業務ができなくなったことをいいます。 したがって、例えば、バースで荷役を指示されている期間、船が航海できなかったとしても、「Preventing the full working of the vessel」にはあたらないことになります。

また、(オフハイヤー条項でオフハイヤーの要件として船主の過失が定められていない限り、)オフハイヤーの成立に船主の過失は必要な条件ではありません。

2.その他本船の完全な運用を阻害する事由

NYPE書式では、オフハイヤー条項で定めるオフハイヤー事由(人員又は船用品の不足など)を列挙した上で、最後に「any other cause preventing the full working of the vessel」 (その他本船の完全な運用を阻害する事由)をオフハイヤー事由として定めています。

「その他本船の完全な運用を阻害する事由」とは、一般的にそれまでに列挙された各オフハイヤー事由と同類とみなされる事由を意味します。

ただし、「any other cause whatsoever preventing the full working of the vessel」とwhatsoever(何であれ)が追記されている場合、 それまでに列挙されている事由と同類の事由に制限されなくなります(以下で紹介するLaconian Confidence号事件ご参照)。
そこで、船主の場合、whatsoeverが追記されていると、オフハイヤーの成立範囲が格段に広がってしまうため、注意が必要です。

3.判例紹介

オフハイヤーに関連して、船主が勝利した重要判決を紹介いたします。

Aquacharm号事件[1982]1 Lloyd’s Rep. 7
本船がパナマ運河を通過しようとしたところ、本船は貨物を積み過ぎたためオーバードラフトとなり、パナマ運河会社は本船のパナマ運河通過を認めませんでした。 そこで、本船は、貨物の一部を他船に移してからパナマ運河を通過し、パナマ運河出口で再度その貨物を船積みすることとなり、遅延が発生しました。傭船者はこの遅れた期間に対してオフハイヤーを主張しました。
裁判所は、「瀬取りはfull working of the vesselを妨げるとは考えない。様々な理由により多すぎる貨物をはしけに降ろすことはよくあることである。…本船は完全な稼働を保っていたが、 一部の貨物を降ろす必要があったことから遅延した」と判断し、オーバードラフトであっても本船自体は引き続き完全に稼働していたとして、オフハイヤーは成立しないと判断しました。
Laconian Confidence号事件[1997] 1 Lloyd’s Rep. 139
バングラデシュで貨物を荷揚げした後、受取を拒否された貨物である米が船内に15トン強残りました。これは、破れた袋からこぼれ落ちた米と雨水それに船倉内のさび、ほこり、わらなどが混ざりあって、 米としては不適格なものでした。残りくずの処理に関して港湾当局がお役所的な対応をとったため処理に時間がかかり、18日間の遅延が発生しました。傭船者はこの遅延をオフハイヤーであると主張しました。
裁判所は、「(any other causeは、)”whatsoever”という文言がない場合、Ejusdem Generis(同類解釈の原則)、または、契約書・条項の文脈を反映したある程度の制限的解釈によらなければならないことは十分確立していると考える。」とし、 ”whatsoever”という文言がない限り、any other causeはそれまでに列挙された各オフハイヤー事由と同類とみなされる事由を意味することを明らかにしました。その上で、港湾当局の予期も予見もできない干渉行為は完全な外部的な事由であり、 オフハイヤー条項に列挙された各オフハイヤー事由と同類の事由とは認められず、オフハイヤーは成立しないと判断しました。
ただし、もし仮に”whatsoever”という文言が追記されていた場合、結論は変わっていたであろうと述べており、やはり”whatsoever”の文言の有無には注意が必要となります。

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