
第7回 オフハイヤー:期間の喪失
オフハイヤー:期間の喪失
1.期間の喪失
前回(第6回 オフハイヤー:船主が勝利した重要判決の紹介)ご紹介したように、一般的なオフハイヤー条項の下でオフハイヤーが成立するためには、
「①本船の完全な稼働を阻害すること」と「②オフハイヤー条項で定めるオフハイヤー事由が発生したこと」に加えて、オフハイヤー事由により、「③実際に期間を喪失したこと」が必要です。
この「期間の喪失」については、オフハイヤー期間の計算の仕方について、Period Off Hire(期間オフハイヤー)とNet Loss of Time Off Hire(正味喪失時間)の2種類があります。 これらはオフハイヤー条項の定め方次第であり、典型的にはSHELLTIME3はPeriod Off Hireを定め、NYPEシリーズやSHELLTIME4はNet Loss of Time Off Hireを定めています。
2.Period Off Hire
例えば、次のような条項がPeriod Off Hire(期間オフハイヤー)条項です。
(本船の業務を復帰するに実効ある状態に戻るまで、傭船料の支払いを中断する)
Period Off Hire(期間オフハイヤー)条項における期間の計算は、オフハイヤー事由が始まった時点からオフハイヤー事由がなくなった時点までの期間を単純に計算します。
3.Net Loss of Time Off Hire
例えば、つぎのような条項がNet Loss of Time Off Hire(正味喪失時間)条項です。
(それによって喪失した期間について、傭船料の支払いを中断する)
Period Off Hire(期間オフハイヤー)条項では期間の計算をグロスで行うのに対して、Net Loss of Time Off Hire(正味喪失時間)条項ではネットの計算を行います。
すなわち、「傭船者が指示した業務を実施する上で実際にかかった時間」と「オフハイヤー事由がなければかかったであろう本来の時間」とを比較し、 実際にオフハイヤー事由によって傭船者が喪失した期間のみがオフハイヤーとなります。
Period Off Hireの場合、オフハイヤー事由が始まった時点からオフハイヤー事由がなくなった時点までの期間がすべてオフハイヤーとなるため、オフハイヤーは14日間となります。
他方で、Net Loss of Time Off Hireの場合、クレーンの故障によって期間が延長した6日間(14日-8日)がネットの喪失した期間としてオフハイヤーになります。
4.Put-back条項
航行中海難事故が生じ、本船の修理などのために本船が離路した場合、NYPE1946フォームのもとでは、“…the payment of hire shall cease for the time thereby lost” (それによって喪失した期間について、傭船料の支払いを中断する)ことから、海難事故によってオフハイヤー事由が始まってから本船の修繕が完了するまでがオフハイヤーとなります。
他方で、NYPE1993フォームやNYPE2015フォームでは、傭船料の支払いの再開時期を遅らせており、離路または引き返した場合に関して、次のようなPut-back条項があります。
(本船が離路を開始し、又は引き返し始めた時から、本船が再びその開始地点又は目的地から等距離の地点において航海を再開するまで、傭船料の支払いを中断する)
この条項の効果により、航行中海難事故が生じ、本船の修理などのために本船が離路した場合は、海難事故によってオフハイヤー事由が始まってから、 (本船の修繕が完了し、)離路した際の目的地との距離と等距離の地点で航海を再開するまでの期間がオフハイヤーとなります。

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