第8回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介①:通常かつ合理的な航路
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年7月4日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介①:通常かつ合理的な航路

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

通常かつ合理的な航路
Alianca Navegacao E Logistica Ltda v. Ameropa SA (Santa Isabella) [2019] EWHC 3152 (Comm)
本船は、メキシコ西岸のトポロバンポから南アフリカのダーバンとリチャーズベイに向かって貨物を運送しました。定期傭船契約には本船の航路に関する条項はなく、 本船はパナマ運河ルートではなく、少しだけ距離が遠い喜望峰ルートで航海しました。南アフリカに到着後、貨物の損傷が発見されたことから、荷揚げが遅延し、船主は傭船者に対してデマレージを請求しました。
これに対して傭船者は、喜望峰ルートは「通常かつ合理的な航路」ではなく、船主は契約外の航路をとったのであり契約違反であったとして、荷揚げの遅延は船主に起因すると反論しました。 さらに傭船者は、(i)本船が最短距離のルートを行く場合は契約上の航路となるが、(ii)最短距離のルートではない場合は広範な調査検討(貨物の保護にとって望ましいかなどの考慮要素を含む)が要求されると主張しました。
裁判所は、そのような傭船者の主張は認めませんでした。裁判所は、傭船契約で本船のとるべき航路が明確に定められていない場合、本船は「通常かつ合理的な航路」をとるべきであるとしつつ、 通常の航路と直行航路は往々にして異なり、ある航路が通常の航路というためには、慣習的であることの証明は要しないとしました。また、通常の航路はその時々によって変化し、 2つの港間に複数の通常の航路が存在する場合もあることに言及しています。さらに、どの航路が通常の航路であるかを検討する上では、商業上、または航海上の理由も関連すると述べました。 その上で、裁判所は、「通常かつ合理的な航路」を特定するために、傭船者が主張するような広範な調査は必要としないと判断しました。
本件の航海において、喜望峰ルートはパナマ運河ルートよりもわずかに長い程度であり、比較的一般的なルートであったことから、裁判所は、本件航路は「通常かつ合理的」であり、契約上の航路であると判断しました。

本件の裁判自体は、最終的には、船主には運送品に関する注意義務違反があったと認定され、傭船者は遅延に対して責任を負わないと判断されましたが、航路の選択に関しては船主にとって好ましい判決となりました。

マックス法律事務所 業務
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理■海事関係の税法問題におけるアドバイス■船舶金融(シップファイナンス)の契約書の作成等 ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)■エスクロー口座業務

著作権
・「5分でわかる海事法」(https://www.marine-net.com/static/5minMaritimelaw/index.html)に掲載している情報、写真および図表等全てのコンテンツの著作権は、マックス法律事務所、マリンネット、またはその他の情報提供者に帰属しています。
・著作権者の許諾なく著作物を利用することが法的に認められる場合を除き、コンテンツの複製や要約、電子メディアや印刷物等の媒体への再利用・転用は、著作権法に触れる行為となります。
・「私的使用」1あるいは「引用」2の行為は著作権法で認められていますが、その範囲を超えコンテンツを利用する場合には、著作権者の使用許諾が必要となります。また、個人で行う場合であっても、ホームページやブログ、電子掲示板など不特定多数の人がアクセスまたは閲覧できる環境に記事、写真、図表等のコンテンツを晒すことは、私的使用の範囲を逸脱する行為となります。
1. 著作権法第30条 「著作物は、個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること」
2. 著作権法第32条 「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」

免責事項
「5分でわかる海事法」のコンテンツはマックス法律事務所殿から提供を受けているものです。よって、マリンネット(株)が作成するマーケットレポート等、オンライン又はオフラインによりマリンネット(株)が提供する情報の内容と異なる可能性があります。 従いまして、マリンネット(株)は本「5分でわかる海事法」の記載内容を保証するものではありません。もし記載内容が原因となり、関係者が損害を被る事態、又は利益を逸失する事態が起きても、マリンネット(株)はいかなる義務も責任も負いません。
本コンテンツは分かりやすさを優先しており、不正確な表現が含まれている可能性があります。詳しくはマックス法律事務所までご連絡ください。