第9回 船主に有利な重要判決・仲裁例紹介②:傭船者がダンネージ等を
       片付けずに返船した結果船主が被った損害の賠償
著者:近藤 慶 マックス法律事務所 2022年7月19日

船主に有利な重要判決・仲裁例紹介②:傭船者がダンネージ等を片付けずに返船した結果船主が被った損害の賠償

船主にとって有利な判断が下された、比較的最近の重要な判決、仲裁例を今回ご紹介いたします。

傭船者がダンネージ等を片付けずに返船した結果船主が被った損害の賠償
(2022) 1099 LMLN 3
NYPEベースの定期傭船において、傭船者が本船の返船前にダンネージやラッシング資材を荷揚げ後片付けなかったことにより、船主は、 本船の次の傭船の前に船員にダンネージ等を片付けさせなければならなくなりました。そこで船主は片付けにかかった間の傭船料、バンカー代等を傭船者に請求しました。
なお、傭船契約では、「4条 傭船者は、本船の使用及び傭船に対し、…本船が良好な状態で船主に返船される日の返船時まで支払うものとする。…」 「50条 傭船者は、そのオプションで、ホールドを清掃せずランプサム4500米ドルを支払うことができる。ただし、これにはダンネージ/デブリの撤去/処分を含まず、 これらは傭船者の時間/費用負担とする。」と定められていました。
船主は、傭船契約4条及び50条に基づく傭船者の義務は、ダンネージ等の撤去・処分を傭船者の時間及び費用負担で返船前に行うことを意味すると主張し、傭船者はこれを怠ったため、 返船後に船員が片付けに要した時間の傭船料、バンカー代等を請求しました。これに対して、傭船者は、返船後のダンネージ等の片付けに要した時間と費用を負担することにつき合意したわけではないとして、 本船が最終荷揚げ港にてステベドアが実施する片付けにかかる時間と費用を負担することに合意したに過ぎないと主張しました。
仲裁判断は、次の傭船において寄港した際に船主は傭船者のステベドアにダンネージ等の片付けを許可すべきであったとの傭船者の主張に対して、 デッキ上にダンネージ等が残った状態での本船を次の傭船者が認めないことは明らかであるとし、次の傭船で船を引き渡すため船が寄港する前に船員にダンネージ等を片付けさせたことは合理的な判断であったとしました。 そして、船主はメインデッキにダンネージ等が残った状態での返船に起因して生じた損害を請求することができると判断しました。
ダンネージ等を傭船者が片付けずに返船した結果、船主が被った損害として船員による片付けの期間の傭船料や燃料等の賠償請求を認めたものであり、船主にとって好ましい仲裁判断であるといえます。

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