海事法役に立つ はなし

安全港の問題を考える -鹿島港・東京湾は安全だったのか?- (1/3)

更新日:2014年3月

2006年に茨城県鹿島港沖で発生したケープサイズ・バルカー“Ocean Victory”の座礁・全損事故で、同船の船主の保険会社が当時の定期傭船者を相手に英国で起こした損害賠償請求 訴訟の第一審判決が2013年7月30日、英国 等法院から言い渡された。


判決は、定期傭船者に対し同船の全損、サルベージ費用などに係る損害賠償金約1億3760万ドル(約136億円)とこれに対する金利約2900万ドル(約29億円)、訴訟費用の支払いを命じた。
その理由は、鹿島港は安全港ではなく、鹿島港に配船を命じた定期傭船者には定期傭船契約上の責任があるというものである。


最初に、この鹿島港をめぐる英国での判決を通じて、定期傭船契約上の傭船者の安全港・バースに関する責任を考察してみたい。


東日本大震災から既に3年が経とうとしている。筆者は、震災の瞬間は香港で香港弁護士にレクチャーをして

いる最中であった。翌日羽田に帰国することができたが、それ以降、ひっきりなしに海外の船主、P&Iクラブ及び

弁護士から問い合わせがあった。全て安全港の問題である。「東京湾は果たして安全か」我が国の政府が情報を制限している中、日本国民だけではなく海外の関係者も疑心暗鬼であった。その中で私自身は、一定の見解を出すことを強いられた。本稿では、東日本大震災を振り返りながら筆者の見解を公表したい。

定期傭船契約上の安全港・バースに関する傭船者の義務




定期傭船契約上、船舶の積地や揚地は、傭船者が決めることになっている。 船主は、 傭船者の指示に

従って、船舶を傭船者の指示する港に航行させるのが契約上の約束である。


この半面として、傭船者は定期傭船契約上

船舶を安全な港・バースに配船する法的な義務があるとされている。


前述の鹿島港に関する英国判決は、傭船者はこの船舶を安全な港・バースに配船する法的な義務に違反したと判断されたわけである。

安全港・バースに関する傭船者の義務には2種類ある


一般的に言って、船舶を安全な港・バースに配船する傭船者の義務に関して、タンカーの標準契約と

バルカーの標準契約では、「程度に差がある」点が重要である。

    安全港に関する傭船者の義務
             タンカー ⇒ 相対的
             バルカー ⇒ 絶対的

この点は、最終的には傭船契約の表現によって決められるのであるが、 スタンダードな契約書では、バルカーの場合は傭船者の責任は絶対的であり、タンカーの場合は相対的であると言われる。


絶対的とか相対的などの言葉は、法律になじみのない方々には難しいかもしれない。いったいこれは何か?
バルカーの場合は、傭船者が船舶を安全ではない港やバースに配船した場合は、傭船者に過失があろうがなかろうが、傭船者は責任を負う。これを傭船者の責任は絶対的であると表現する。


一方、タンカーの場合は、傭船者が船舶を安全ではない港やバースに配船した場合であっても、傭船者がその港やバースが安全ではないことに関して予見できた場合に限って、傭船者は責任を負う。要するに傭船者に安全港・バースの選定に関して具体的な過失がある場合に限って傭船者は責任を負うのである。

これを傭船者の責任は相対的であると表現する。

何故、タンカーとバルカーでは差があるのか聞かれたことがある。私にはわからない。ただし、タンカービジネ

スはいまだに傭船者の買い手市場なのが原因なのかもしれない。

安全でない港・バースとは


有名な英国判決によれば、安全な港とは、

「異常事態の発生がない状況で船舶が入港し、港を利用するまでの間、適切な航海技術及びシーマンシップ

により避けることのできない危険にさらされることのない港」 を言い、そうでない港は、安全でない港・バースと

判断される。


判例で出てきた安全でない港・バースは、以下のとおりである。

  ・ 沖出しブイが撤去され,フェンダーも修理中であったため,強風により岸壁で荷役中に
     船体に損傷が発生した事例

  ・ 錨かきが悪く,冬期の気象になると,安全な停泊あるいは出港ができない港

  ・ 風が変わり状況が変化すると危険になりがちな港

  ・ 港のチャートが古く,実際の水深がチャートとは異なり、船舶が座礁した事例

  ・ 荒天に際して沖出しを必要とするにもかかわらず,船長に対して十分な気象情報を提供する
     準備がなされていなかった場合

  ・ 入港のためには積荷の一部を瀬取りしなければならない港

  ・ 指定港が戦争状態など政治的理由で危険とされる場合

  ・ 指定港に向かう途中敵国の拿捕または攻撃の危険がある場合

業務内容
■海事紛争の解決 ■海難事故・航空機事故の処理・海難事故(船舶衝突・油濁・座礁等) ■航空機事故 ■海事契約に対するアドバイス ■諸外国での海事紛争の処理 ■海事関係の税法問題におけるアドバイス ■船舶金融(シップファイナンス) ■海事倒産事件の処理・債権回収 ■貿易・信用状をめぐる紛争処理 貿易あるいは信用状をめぐる紛争、石油やその他商品の売買取引をめぐる紛争を解決します。ICC仲裁やJCAA(日本商事仲裁協会)の仲裁も行ないます。Laytime、Demurrageに関してもアドバイスを行います。 ■ヨット・プレジャーボートなどに関する法律問題 ヨット、プレジャーボートやジェットスキーなどの海難事故に対処するとともに、これらの売買などにかかわる法律問題に関してもアドヴァイスを行います。 ■航空機ファイナンス(Aviation Finance)

免責事項
「海事法役に立つはなし」のコンテンツはマックス法律事務所殿から提供を受けているものです。よって、マリンネット(株)が作成するマーケットレポート等、オンライン又はオフラインによりマリンネット(株)が提供する情報の内容と異なる可能性があります。従いまして、マリンネット(株)は本「海事法役に立つはなし」の記載内容を保証するものではありません。もし記載内容が原因となり、関係者が損害を被る事態、又は利益を逸失する事態が起きても、マリンネット(株)はいかなる義務も責任も負いません

著作権
•マックス法律事務所が海事法 役に立つはなし(http://www.marine-net.com/maritimelaw/)に掲載している情報、写真および図表等全てのコンテンツの著作権は、マックス法律事務所、マリンネット、またはその他の情報提供者に帰属しています。
•著作権者の許諾なく著作物を利用することが法的に認められる場合を除き、コンテンツの複製や要約、電子メディアや印刷物等の媒体への再利用・転用は、著作権法に触れる行為となります。
•「私的使用」1あるいは「引用」2の行為は著作権法で認められていますが、その範囲を超えコンテンツを利用する場合には、著作権者の使用許諾が必要となります。また、個人で行う場合であっても、ホームページやブログ、電子掲示板など不特定多数の人がアクセスまたは閲覧できる環境に記事、写真、図表等のコンテンツを晒すことは、私的使用の範囲を逸脱する行為となります。
1. 著作権法第30条 「著作物は、個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること」
2. 著作権法第32条 「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」

Email : info@marine-net.com