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安全港の問題を考える -鹿島港・東京湾は安全だったのか?- (2/3)

更新日:2014年3月
傭船者の反論(1)~操船上のミス


船舶が港やバースで事故を起こした場合であっても、その事故が船員の操船上のミスで発生した場合は、

傭船者は責任を負わない。 操船上のミスか、安全でない港・バースが原因か、結構難しい問題であり、

実務上はいつも問題となる点で ある。

数年前、アフリカのある港の中で船舶が座礁した事件で、船主の代理として、傭船者に対して非安全港で

あるという理由で仲裁を起こしたことがある。港内の海底にチャートにはない突起物がありそのために

コンテナ 船が座礁したため、修繕費の支払いを求めて傭船者に海運集会所で仲裁を提起した事件である。

、傭船者は 座礁は干潮時に発生したものであるが、満潮まで待って出港していたなら座礁は発生しなかった

のであるから船長の操船ミスであるとして反論した。結局、仲裁人の和解勧告もあり、和解で解決したが、

操船上のミスの問題が実務上頻繁に発生する典型例と言えよう。

傭船者の反論(2)~異常事態・Simple Bad Luckの発生


安全港・バースの問題でもうひとつ傭船者が責任を逃れる時に使用するのが、異常事態・Simple Bad Luckの

問題である。

(1)  予想できない超異常事態

本船の事故が、港の安全性とは無関係の突発事故,例えば、全く異常な荒天あるいは他船の航行上の過失のために発生した場合、傭船者は港が安全でなかったと主張することによって責任を負うことはない。

突然発生した内乱に停泊中の船舶が巻き込まれた事例などもこの部類に入るだろう。

(2)  “Simple Bad Luck”

これは,本船・船主にも傭船者にも全く過失がなく、本当に運悪く事故が発生した場合に、事故は港が危険だったわけではなく,“Simple Bad Luck”であったということで傭船者を免責させようとする考え方である、判例上

認められた事例はひとつしかないようである。
この事案は、本船の乗組員の高い操船技術にもかかわらず,船舶がアンカーを港で失った事案である。

裁判所は,この事故は“Simple Bad Luck”であったと判断して傭船者を免責させた。ただし、この判例の

射程距離をめぐっては争いが多いようであり理論上非常に面白い点である。

鹿島港判決の検討


ケープサイズ・バルカーである本船は、2006年10月20日、鹿島港に到着し、原料岸壁 に停泊した。着岸後に.

天候が悪化し始め、高いうねりと長波のほか、風力8の北東の風を記録した。本船は岸壁沿いで横揺れをし、

その結果、船尾ブレストラインが切断し、その他の係留索も擦り切れ始めた。傭船者の代理店職員および

先人が船長に対して岸壁から出港するよう助言を行った。本船は離岸後、鹿島水路に沿って強風および

高い波浪を受け、座礁した。本件事故によって、合計1億3760万米ドルの請求が生じた。全損金などの

保険金を支払ったノルウェーの保険会社が定期傭船者を訴えたのが本件事件である。

船主の保険会社は、本件は鹿島港が安全でないことから発生した事故であるから、船主は傭船者の保険会

社に対して損害賠償を求めた。

傭船者の反論は以下のとおりである。

(1)  本件事故は、船長の出港における操船ミスなど船長のミスにより発生したものであり、傭船者が責任を負

うものではない。

(2)  傭船者が保証する安全港でいう安全性とは、「合理的な安全性」であり、かつ合理的な警戒を行うことに

すぎない。鹿島港は、有名な商業港であり、合理的な安全港であることは間違いない。ありとあらゆる面で全

ての設備が整っていなければ安全港ではないという主張は行き過ぎであり間違いである。

(3)  鹿島港における本件事故当時の気象は、過去に記録のない、予想することのできない気象であり、

具体的には長波と北寄りの強風が同時に発生したことによる例外的な異常気象でもあり、傭船者は異常事象

の考え方で免責されるべきである。

裁判所は、傭船者の主張をすべて退け、以下の通り、鹿島港を安全でない港と判断し、傭船者の責任を認めた。

(1)  鹿島港において、ケープサイズの船が、北からの強風と北西からの波浪の中で安全に出港するには、単なる標準的な海技よりもむしろ、幸運が要求されていたと思われる。船長には何ら過失はなかった。

仮に船長にいくばくかの過失が認められたとしても、そのことは本件事故の主要な原因ではない。船長の過失があったとしても、鹿島港が非安全港でありそのことにより本件事故が発生したことに影響を与えるものではない。

(2)  傭船者が保証する安全な港とは、「絶対的に安全な港」である必要はないが、「合理的に安全な港」というあいまいな基準で判断されるべきではない。

要は、事実問題として、安全な港であるかどうかが判断基準となる。「合理的に安全な港」という基準を持ち込む傭船者の主張は採用できない。

(3)  傭船者が免責される異常な気象とは、当該港の一般的な特徴とは関係しない事情で発生したものでなくてはならない。

本件事故は、むしろ港の固有の特性や特質、すなわち長波及び強い北風からの脆弱性(弱さ)によって生じたものであり、鹿島港は、長波及び北からの強風の影響を受ける場合に船舶は離岸せざるをえない現実の危険が存在した。
しかしながら、鹿島港は、ケープサイズの船に対して安全な時に出港するよう通知をする安全システムが整っていなかったので非安全港である。

本件判決であるが、鹿島港が安全ではないというのはあくまでもケープサイズの船に限定している。本判決は、控訴中であるが、鹿島港が安全港であるかどうかを巡る事実認定に大きな変更はないであろうというのが英国での一般的な見方のようである。なお、鹿島港は、本件事故後、港内の安全システムの改良を行ったと伝え聞く。

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