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【マリンネット探訪第2回】
2022年末から日本初のLNG燃料フェリーが順次、就航
進化した「カジュアルクルーズ」で優雅な洋上のひとときをーー
< 第502回>2021年08月03日掲載 
 株式会社フェリーさんふらわあ
代表取締役社長 赤坂 光次郎 氏

 










――西日本の物流を支えるとともにくつろぎの船旅を提供しているフェリーさんふらわあの赤坂社長です。日本初となるLNG燃料フェリー”さんふらわあ くれない”、“さんふらわあ むらさき”の就航が2022年末から2023年初頭に控えていますが、意気込みをお聞かせください。

タイトル
昨今、荷主が物流面での環境負荷の軽減を目指しつつある中、LNG燃料フェリーではC重油と比べて硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、二酸化炭素(CO2)の排出をそれぞれほぼ100%、80%程度、20~30%程度抑えることができます。今後、こうしたクリーンな輸送の強みをしっかりとアピールしていきたいと考えています。


――フェリーさんふらわあの運航船の中で最大船型となるそうですが、LNG燃料以外の特徴はどのような点でしょうか。

タイトル
 全長が199.9メートルと瀬戸内海を夜間航行できる最大船型となっており、定員一人当たりの面積を大幅に広げています。個室を増やしたほか、家族3世代向けに洋室と和室の間を行き来できるコネクティングルームを備えています。グループごとの空間を設けられる個室を主体とし、プライベート化を進めています。またドライバー不足によるトラック輸送のモーダルシフト化への流れに対応し、トラック輸送能力も大幅に増強しています。


――ドライバー向けスペースはどのようになっているのでしょうか。

タイトル
 全室、ベッドやデスク付きの個室を備えています。ゴールデンウィークやお盆など、物流需要が落ち旅客輸送がピークとなる時期には、一般旅客の方々にもご利用いただけるようにしています。


――ゆったりと一晩を過ごせそうですね。

――新造船の運航開始を前にして、様々な準備が進められている最中ですね。

 LNG燃料船の運航には船長や機関長、機関士の危険物等取扱責任者資格の取得が必要となっており、海技教育機構が開催する、ガス会社の設備を用いた研修へ参加するなどして対応しているところです。運航開始後、技術に習熟するまでの一定期間は、商船三井から同社が保有・運航するLNG船に乗船経験のある機関士を派遣してもらい、サポートを受ける予定です。


――LNG燃料の供給体制について教えてください。


 当初はシップ・ツー・シップ方式を検討していましたが、現状、西日本にはLNGバンカリング船がないため、トラック・ツー・シップ方式を採り、タンクローリー4台から同時に供給します。トラックやお客様の乗下船の合間を縫って、大分の別府港で2日に一度、1往復分を3時間程度で供給する予定です。一方、シップ―・ツー・シップ方式では一度に3往復分を供給できるため6日に一度のペースで済むことになり、将来的に西日本でもバンカリング船が手配できた場合にはシップ―・ツー・シップ方式に移行したいと考えています。


タイトル
――今後、LNGバンカリング船による供給インフラが整備されていくことを期待したいですね。

――「ウィズコロナ」の状況下、フェリー利用では「密」回避のために乗用車を利用する傾向があると聞きました。

 政府の支援策「Go Toトラベル」が追い風となり、2020年11月には一時的に旅客利用が盛り上がったものの、新型コロナウイルス感染拡大とソーシャルディスタンス確保のために定員を大幅に減らしている影響で、利用人数自体は前年比6割程度にとどまりました。ただ同月の乗用車の利用台数では新型コロナ前と同水準となっており、人込みを避けて乗用車での移動を選ぶ傾向が見られました。またツーリング客向けのバイクプランの利用も増えています。コロナが収束しても、個室に泊まり、マイカーやバイクで気ままに各地を回りたいというニーズは変わらないものと見込んでいます。


――洋上で非日常を過ごす「カジュアルクルーズ」に、安心の個人移動を組み合わせて2度、楽しめる旅となりますね。

――これまでで印象に残っているお仕事についてお聞かせください。


 2008年から、香港をはじめとしてタイ、そして再び香港、シンガポールと計11年間、東南アジアに駐在し、商船三井の定航事業の管理や現地会社の運営を行っていました。最後の5年間ではアジアや中東、オセアニア、東アフリカを担当し、1年の半分以上、出張に行っていました。中進国が多かったので、この11年の間に国がどのように動き、発展していくかを肌で感じることができたのは非常に印象深かったです。11年間で延べ400か国は訪れたと思います。また、東南アジアに駐在する前にアメリカ駐在を2度経験しており、入社してから半分以上を海外で過ごした形になりますが、日本を長く離れていたことで、かえって日本の素晴らしさや便利さを再認識することになりました。我々が当たり前だと感じている様々なことが、海外の方々にとっては新鮮で価値あるものなのだと気付かされたのです。そう考えると、コロナ収束後、インバウンドの波は一気に押し寄せるのではないでしょうか。


――人生の転機となった事柄についてお聞かせください。

 1987年から6年間、日本貨物航空(NCA)に出向し、ロサンゼルスにも駐在しました。NCAは当時の邦船中核6社と全日空が設立した会社で、出身母体の異なる様々な人が集まっていたのです。駐在当初、自分の出身会社のやり方が一番正しいという固定概念から、周囲との些細なズレが非常に大きなズレのように感じられ、ストレスで十二指腸潰瘍を患ってしまいました。それ以降、考え方を切り替え、大差ないなら相手の主張に合わせていくのも一つの対処法だと会得しました。この発想の転換は大きいものでした。今でもよく思い出します。


――その後、東南アジア駐在時代に各国を回られた時にも、当時のご経験が生きたのですね。

 例えばインドにはインドのアプローチがありますし、中国では自己主張が強い方が多いですが、相手の主張を聞き、こちらが誠実に対応すると相手もそれに合わせてくれるようになります。要するに世界どこでも如何に人間関係を構築するかが鍵となります。


タイトル
――違いを許容するということですね。

――座右の銘についてお聞かせください。

 「継続と努力は力なり」です。「継続は力なり」というものもありますが、継続に加えて努力を重ね、地道に取り組むことで結果がついてくると考えます。



――何か継続されている心がけなどはありますでしょうか。

 日々のコミュニケーションを大事にすることです。例えば、メールの代わりになるべく相手に直接話しかけるようにしています。また在宅勤務下、画面越しの打ち合わせでは相手の表情をつかみづらいですが、こうしたリモートでのコミュニケーションは、コロナ禍のような状況ではある程度は機能しますが、「仮想の」コミュニケーションであるように感じてなりません。


――お互いに「仮想の」コミュニケーションだと認識した上で、やり取りする必要がありますね。

――最近感動したこと、夢や目標についてお聞かせください。

 当座の夢は、大阪-別府航路のLNG燃料新造フェリーを無事に就航させ、ご好評いただくことです。また神戸-大分航路の既存船も6~7年後にはリプレースの時期を迎えます。LNG燃料を踏襲するか、アンモニアまたは水素、更にはバッテリーとのハイブリッドへ舵を取るのか、こうした次世代燃料・推進装置をめぐる動きについて、社内の若手・中堅においてもより一層関心を持ってもらい、適切な意思決定を行いたいと考えています。

 業務を離れると、私は歩いたり走ったりするのが好きで、将来、引退した後の目標は、365日、毎日30キロほど歩いて日本を一周することです。そのために、今のうちに足腰を鍛えておきたいと考えています。
 また、今度は身近な社会へも貢献していきたいという思いがあります。例えば、子供は国の宝でありながら出生率が減少している近年ですが、貧困と教育機会の問題が指摘されており、子供は食べないことには勉強できません。一例として、企業側のフードロスは解消すべき問題ですが、こうした余剰な食料を困難な家庭に届ける取り組みに携わることはできないかと考えています。加えて、地方の過疎化が深刻ですが、先ほどお話したように、外国人観光客が訪れてみたいと感じる観光資源は、実は様々なところにあると思っています。観光客受け入れのためのインフラ整備は必ずしも道路を整えることだけでなく、洋式トイレやシャワーの設置、Wi-Fi環境の整備といったものこそ欠かせません。隠れた「価値」の掘り起こしに関わったり、またインバウンド呼び込みに欠かせない語学教育のための取り組みにも携わったりしてみたいと考えています。



――力になりたいとお考えになる分野がたくさんあるのですね。

 そうですね、まずは日本各地を歩いてからじっくり考えてみたいと思います 笑。


タイトル
――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。


関西の粉ものが好きです。神戸・三宮の「たこ庵」の明石焼きにビールの組み合わせは格別です。ただ私は東南アジア駐在時代、そして現職と単身赴任が長いのですが、外食は油が多く太りやすくなるので、駐在当時、そして現在も基本的に外食は控えています。家に帰ってお酒を飲みながら自炊することが多く、平日の昼食も朝早く起きてつくった弁当を食べています。


タイトル
――ご自身で料理をされるのですね。一番の得意料理は何でしょうか。
 月並みなものしかつくれませんが、きのこスパゲティです。カレーもよくつくります。妻には「また同じものをつくっている」と言われますが、カレーは好きなので仕方ないですね。また、海外生活を思い出して時折、食べたくなるのはタイの名店「マンゴーツリー」のガパオライスです。あまり高いものを食べていないことがバレますね。


――心に残っている「絶景」についてお聞かせください。

 スケールの大きさで印象的なのは、2000年、商船三井の米国・ニューヨーク事務所駐在時代に訪れたナイアガラの滝です。雄大な景色に、ただただ圧倒されました。




 
【プロフィール】
(あかさか みつじろう)
1959年生まれ 東京都出身
1982年 関西学院大学商学部卒業、大阪商船三井船舶(現:商船三井)入社
2014年 執行役員
2017年 常務執行役員
2019年より現職
 
■株式会社フェリーさんふらわあ(
https://www.ferry-sunflower.co.jp/

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