dbg
【まりたん第4回】
海x風x船xテクノロジー
蓄電池と電気運搬船で世界にエネルギー革命を!
< 第513回>2022年03月09日掲載 
株式会社パワーエックス
代表取締役 社長
伊藤 正裕氏
 








 昨今、自然エネルギーの普及並びに蓄電、送電技術の進化において新規事業を展開するPower X社の動向に注目が集まっています。昨年12月に発表された電気運搬船「Power ARK」の船級取得の本格始動に向けたDNVとのLOI締結や日本一の造船メーカー今治造船との提携、更には、今年1月にも日本郵船と協業を発表するなど、事業の実現に向けて活発な動きをみせています。
マリンネットでは、これらの報道の前後にPower Xの伊藤社長にインタビューを実施しました。
伊藤社長のベンチャー企業としての矜持、また海運のみならず、電力系統のイノベーションまで、未来を見据えた話をインタビューで紐解いてみました。



――伊藤社長は、元株式会社ZOZOの中心メンバーという大変興味深いご経歴です。ご自身、並びにPower X社のご紹介をお願いします。

 私は、2000年の17歳の時に起業し、14年間に渡って経営に携わりました。その後、ZOZOにその会社を株式交換で売却してからは、ZOZOのテクノロジー部門にイノベーションを起こす新規事業を基幹として7年間在籍していました。2021年には、ZOZOの取締役兼COOを退任し、2021年3月にPower Xを設立しました。
このPower X社は、私と鍵本が、共同創設者です。鍵本はマザーズで上場しているバイオバンチャーヘリオスの創業社長で、同社はIPS細胞を使って新薬を開発する、再生医療を手掛けています。



――3名の社外役員の方も錚々たる方々ですね。

 まず、Paolo CeruttiさんはNorthvolt社という電池ベンチャーの共同創設者兼COOです。彼は、元々テスラ、ルノー・日産に在籍していました。 
Northvolt社は過去6年間で約7,000億円を集めており、電池の受注残はフォルクスワーゲンやBMWを主として1兆5,000億円分あります。
 またCaesar Senguptaさんは、Googleの元幹部でChrome BookやChrome OS、更にGoogle Payなどのグローバルの責任者を歴任された方で、つい最近フィンテックを扱う会社を設立されています。
 そしてMark Tercekさんは、ゴールドマン・サックスの元パートナーで、その後、環境保全系の世界最大規模のNPO団体ネイチャーコンサーバンシーの社長を10年歴任しており、非常に環境とファイナンスに詳しい方です。
 このようにファイナンスと環境とソフトウェア、電池に詳しい方に社外役員に入っていただいております。



――すごいですね。では電気運搬船のコンセプトを教えて下さい。

 『風、水、太陽 自然が生み出す電力を、バッテリーに溜めて「船」で運ぶ。電気の燃料を運ぶ時代から、電気そのものを運ぶ未来へ。』を真剣にやっています。
 今のエネルギー輸送は燃料としてのエネルギー輸送にとどまっています。燃料は安定している状態なので、これまでは輸送できたのですが、脱炭素社会が命題となっている中、このような化石燃料の使用ができなくなります。電気としての輸送は送電線を介せねばならなかったわけですが、再生エネルギーとして発電できるものが、送電線の様々な制約から電力系統に流せないケースが多々あります。従って発電した電気は、貯めて運ぶ必要があると思っております。我々はこの「貯めて運ぶ」を事業にしたいと考えました。
 実は、運ぶ事に対して、既に予想以上に問合せが来ております。風力発電に関していうと、英国の事例があります。英国の電源構成の約2割は、風力によるものです。21年9月、10月は風力発電量が低調だった事もあったため、歴史的な電力難となり、急いで高騰する石炭を調達せねばならない事態になってしまいました。その時にもし電気を運べる船があれば、隣国で安い電気を調達し、数時間走って放電すれば高く買ってもらえるといったように、これまでは石炭やガスを買っていたように、輸送した電気そのものを売買できるようになると考えています。エネルギーの物流は再生可能エネルギーとなっても必要なわけで、それは燃料でなく、電気のまま運ぶというだけの話です。燃料に関していうと、石油パイプラインが安全保障上、国家間をまたぐのが難しいように、電気も、送電線の国際連係も安全保障上及びグリッドの安定といった観点で簡単でないです。現在は、石油等燃料は、船を使って輸送していますが、それと同じように電気そのものの海上輸送ができると考えたわけです。





―なるほど、では実際どのように使われるのかもう少し教えていただけるでしょうか。

 最近のユースケースを話します。我々はPower ARK という自然エネルギーを運ぶ「電気運搬船」を設計しました。風力発電の場合、Power ARKの甲板から本船クレーンを使って充放電を行います。沖合の発電プラットフォームに船が近づき、クレーンにてケーブル接続端子を運び接続し、接続が出来たらプラットフォームから離れます。船自体はDP2()なので自船の位置を保って充電作業をするというものです。

※ DP2: 自動船位保持船(Dynamically Positioned Vessel) に於いての規格。 DP1~DP3がありDP2は、自動船位システム不具合時に代替のバックアップ機能がワークするもの。

タイトル この船は、沖合で作業を行います。クレーンの振れ幅を抑えるため、甲板を広くとったトリマラン型としています。100m級の船を日本海で展開するという計算で造船技師がこの形を選びました。しかしながら実際はユースケースによって船の形状はいくらでも変わると思っています。例えば陸から陸、ある港で充電、別の港で放電する場合は、作業は港内でできますので、通常のコンテナ船でも問題がないわけです。このPower ARK自体は、浮体式洋上風力発電が来るであろう2030年前後に展開したいと思っています。
 
 また欧州の別国からは、給電船として使いたいという引合いがあります。大型クルーズ船がノルウェーなどのフィヨルドに停泊する際、アンカリング中のCO2排出ゼロを目指すとなると、発電機が使用できなくなります。その際に電気運搬船がクルーズ船に横付けし電気供給して停泊中のCO2の排出をゼロにする。こういった需要が非常に高いと言われている次第です。
港内のCO2を無くす、減らすといった試みは、欧州では非常に先進的に考えており、この給電船のコンセプトには、興味を示してもらっています。
 また別のケースですが、沖合のガス開発等のプラットフォームはかなり電動化されているそうです。例えばそのプラットフォームまで、港で充電した水力由来の電気を、電気運搬船で運び、なるべくクリーンな天然ガスを開発しようというケースもあるといわれています。
 そして、短距離船が電動化される中で、電気自動車と同じようにこれから国によっては、高圧の給電設備が問題になってきます。充電をするために港にも高圧電源が必要なのですが、港によっては、高圧電源が確保できず、船に対して充電するのが非常に困難な場所があり、仮に出来たとしても膨大なコストがかかってきます。しかしながら、もしこのような電気運搬船が近くを巡回していれば、船から船へ売電することができるわけです。これを洋上風力と組み合わせると、洋上風力で充電した電気運搬船が、航行中、停泊中の内航船や短距離船を充電できます。
 これは実は、間に入る電力会社を含め、既存の送電、配電網が入らない仕組みができます。端的に言えば、費用の償却は風力電力の減価償却のみです。送配電ネットワークを新たにつくらなくて済むという事は、大変安いコストでエネルギーの調達が可能で、電気を直売することができるという事です。電動船が増えると、電気運搬船を海のガソリンスタンドとして、使うことが出来ます。
 電気運搬船側で大量のバッテリーを積んでクレーンなどの設備を付けることにより、内航船は充電設備を極力抑えた上で洋上にて充電が可能です。この市場は私どもが当初想定しているものより早く来ているので、非常に需要があるのではないかと考えています。
 あとは、陸から陸への送電です。
 海底送電網を敷き、直流海底送電する試みが時々話題になりますが、地震国では課題がたくさんあるのが実態です。我々が陸上では感じないような地震が海では頻繁に起きていますので、海底を震源とする地震によって海底ケーブルがずれたり壊れたりということは、実はよく起きています。欧州の複数の事例をみても海底送電船のアップタイムが結構低いのがみられます。1年間の中で1カ月、2カ月とか平気で海底送電が落ちてしまうということが起きています。一方、船だと1カ月落ちるということがない訳ですね。悪天候で航行できなくても翌日か、本当に悪くて2日、3日航行出来ないことはあっても1カ月、2カ月航行でないという事はないため、船での供給でも、実際は陸から陸への供給という引き合いが多いです。その他では、沖合の魚の養殖場の電源ですとか、欧州の方では、こういった引合い、及び具体的なユースケースがでてきています。



――なるほど、海底送電線の課題のソリューションになるわけですね。

 今申し上げたような使い方をもって、バッテリータンカーという新しいタイプやクラスが存在すべきだと考えています。今後はこの新しい船型も造りたいと思っています。


――今 BCというとバルクキャリアですが、いずれBCといえばバッテリーキャリアの事になってきてしまいますね。(笑い)

 船がケーブルの代替になるのがコンセプトですが、船の充電池は、送配電網を介さない事で代替以上のもっと大きなメリットがあると思います。陸上の風力発電、また今の洋上風力は、既存の系統が耐えられるように、発電された電気をコンディショニングして送電します。端的に言えば、ぐちゃぐちゃの電気をそのままケーブルに流せないので、ケーブルのスペックにあった電気に一旦変電してからケーブルに入れて流すわけです。ところが充電池は間口が広いので、この変電設備が不要となります。ボルト数が頻繫に変わったとしても問題なく充電ができます。そうなると洋上風力の設備が大幅にコストダウンできるということに繋がります。風車一棟が10億円、変電設備は200億円しますが、これがバッテリー充電器のコストで済むようになるわけです。風車に工夫をすれば、風車のナセルか風車のどこかにそういう装置を入れられて、そのまま船につなげられる。まとめて一箇所につなぐ、コネクターサブステーションを一個作れば変電所はいらなくなります。そうすれば設備投資はものすごく簡素化できると思っています。船で電気を運ぶことにより、洋上風力の他の設備投資も大幅に下げられますので、地震が多い海底の深いところにケーブルを敷くことを考えると、総合メリットはそこにも出るわけです。
 もう一つ、最近分かってきていることとしては、直接船から電気を調達したいという話もあります。沿岸の工場やデータセンター、電気を大量に消費する施設を沿岸部につくって、直接船で持ってくる。となりますと洋上風力に限らず、バイオマス電力発電所の電気を船が直接受けて、既存の電力系統を経由せずに持ってきて自己利用ということもできるわけです。電気運搬船によって、どこにでも電気を持っていけるようになるので、売り先が増える。これは、風力発電を運用している人たちからすれば、既存電力系統に流してFITで販売もできますが、小売で直接販売という可能性もあります。また近くで走っている電動船に販売出できるなど、様々な可能性があります。



――設備投資が少なくて済むというのは、確かに大きなメリットですね。

 さらにケーブルの話をしますと、それほど大きくない地震でもケーブルでは災害級の影響がでます。例えば、沖合30kmのところにある洋上風力のプラットフォームからは、直線的にはケーブルは敷設できず、その長さは50kmくらいになります。浅いところで50mから100m、深いところでは500m、1000mまで潜っており、立体的な敷設になっています。もし地震が起きてケーブルが切れると、どこで切れたかを見つけなければならず、該当箇所まで潜っての作業が必要になってきます。一箇所で切れているのか、どこかでよじれているのか、どこかで潰れているのか、それによって信号がどう変わったのか常にモニターが必要です。それが仮に1,000mのところでよじれていたり切れていたりすると、そこまで潜ってリアルな作業をしなければなりません。それが、年間に1回でも2回でも起きますと、ケーブルのアップタイムが保証できないということになります。洋上風力の保険はケーブル部分が90%以上となるとの事で、ケーブルのアップタイムが見えないと保険に入れず、プロジェクトファイナンスの組成が難しくなります。今は洋上風力の設備は設置しやすいところにありますが、今後の洋上風力の需要から考えると、いずれもっと難易度が高い海域に展開されることが想定されます。その際は、よりファイナンスの問題が顕在化してくるという話もあります。そうなってくると電気運搬船は、よいソリューションなのだと思っています。
 今般 Power X社は、今治造船と提携し、先方から10億円の資金を調達、かつ2025年末までに「Power ARK」プロトタイプ船を共同で建造する事になったわけです。弊社は、この船に搭載する蓄電池ユニット、その他の蓄電池にかかるシステムの開発、製造を実施し、協業していきます。
このように船は建造する事になりますので、送電のテストは、早く実施していきたいと思っています。その上で船の認証も取り、さらに蓄電池の認証も取得していく事となります。

 それらの認証が取れるとプロジェクトファイナンスが組成できます。そのようになると船、風力発電セットで証券化するようなSPCができ、セットで普及展開できるわけです。それらは今から準備しないと、この技術が必要になる2020年代後半に間に合わなくなります。2024年、2025年に実証試験をすれば、この仕組みに優位性があるか、問題点、リスクが見えてきます。その上でファイナンス、証券化、付保の可否等が見えてくると思っています。


――この「Power ARK」プロジェクトともう一つ事業の柱があるのですね。


 Power ARKというのが電気を運ぶ事業で、Power Maxが電気を貯める事業となります。ここからは、Power Maxの説明をします。
 一般的なお話ですが、2030年の政府の再エネの目標が37%となっています。37%まで上げるためには、太陽と風力だけで23兆円の追加投資が必要になると言われています。2050年のカーボンニュートラルまでには、最大で70兆円の太陽光と風力でさらなる設備投資が必要となります。従いこれから20年は、投資フェーズが続きます。日本において一番伸びしろが大きいのが太陽光ですが、太陽光、風力ともVRE(Variable Renewable Electricity:変動電源、変動型自然エネルギー)というものです。これらは自然任せで、発電量をコントロール出来ない電源です。太陽光パネルを設置しても、発電を天気任せで待つだけというもので、そのようなコントロール出来ない電源が2030年135.9ギガワットもあります。これらをコントロールするためには、理想的には72ギガワットアワーの蓄電池が必要になります。この72ギガワットアワーを試算すると、蓄電池市場としては2.9兆円くらいの規模が見込まれます。2050年にはVREが420ギガまで上がると、10兆円くらいの設備投資が必要となります。
 従い、これから電源構成は、変動型が増えてくるので、電気が余剰となるときと、不足するときが出てきてしまいます。この変動の平準化を畜電池で実施するのが一番良いと考えています。今現在このVREは50ギガありますが、余剰となった分を蓄電池で吸収できないので、余剰が出た時は発電所の電力量を抑え、足りない時は臨時用の火力発電などの炭素系のエネルギーを使って一時的に発電量を増やしています。
 弊社はそれに対し、年間5ギガワットアワー分の蓄電池をつくれる工場を建てます。弊社の工場では自社設計のモジュールに電池セルを入れます。この電池セルは外部調達します。なぜならコアの化学反応が起きる電池セルは、グローバルなサプライチェーンで、日進月歩でどんどん進化しますので、最適なセルを定期的にアップデートし調達してくるのが正解だと考えているからです。自社設計のモジュールは、BMS(Battery Management System)がモジュール側と、クラウド側にも付いています。実は、リチウムイオン電池というのは、残存、つまりあと何回使えるか測ろうと思っても科学的に測ることが出来ません。従い、畜電池は必ず生まれた日からずっと情報で管理する事で残価が把握する事になります。自社モジュールを作る意図というのはBMSでモジュールをしっかり管理することと、そのモジュールをクラウドでずっと管理することによって、我々が一次利用、二次利用、三次利用までできるよう管理する事が可能になります。電池の利用目的によっては、性能より、安い価格を優先したいということがあるので、新品ではなくて3年くらい減価償却した電池を引き取って、残価95%とか、93%とかいう電池を導入して大量に入れるというケースも想定しています。そのようなエコシステムの構築が我々の事業の特徴となります。
 どのような畜電池をつくるかといったら、例えばEV給電用の蓄電池です。EVは、急速充電機で充電する方がはるかに利便性は高いです。
タイトル
 我々が想定しているこの急速充電用の蓄電池は、最大300KWの出力なのですが、これがあればEVは10分で充電ができます。実は350KWまで対応している車が市販で出てきています。ポルシェタイカン、アウディe-tron などには、800vの電池が入っていて350kwの出力の充電ができます。ちなみに今は日本にはこの出力の充電機が一個もなく充電に時間がかかっています。急速充電機を設置するには、従来ですと既存の系統から高圧電源が必要になり、それ故、限られた場所でしか設置できません。一方この蓄電池であれば、どこにでも置け、低圧で充電、例えばどこかのコンビニ、集合住宅に置いて、ゆっくり低圧充電し、車に対しては高圧で給電できるとなります。つまり、超高圧充電器がどこでも設置できる、かつ設置工事もミニマイズできるというのが、この蓄電池の良さです。2030年までには3万機必要かというところです。



――マンション住まいだとEV車の購入をあきらめていますが、これがあればEVにとっても救世主になるかもしれませんね。

タイトル そして大型船舶用電池です。これは船の駆動系など船で使える蓄電池となります。コンテナ形状で40フィート、20フィートサイズそれぞれに対応でき船にそのまま積載できます。すでにCorvus Energy(ノルウェー)でも船舶用充電池をつくっていますが、違いを挙げると、我々はコスト的にもう少し低いところを狙っています。さらに高圧給電ができますので、船内でパワーが必要なものに向いています。
 さらにこれは電気運搬船にも載せるもので複数つなげます。複数つなげると一気にパワーを出す事が可能です。中型作業船だったらDP2くらいだったら全て電気デバイスで賄いエンジンを回さず定位置をキープできるわけです。例えば、港内などの排他的経済水域内ではエンジンを切って電動で航行することもでき、一方主機を回している間は、この電池に充電できるとなります。
 2022年末までにプロトタイプを完成させ、営業スタートを考えています。23年から電池の注文を受け、24年の前半くらいから本生産をしたいと考えています。
 現在の資金調達計画は、シリーズAなど順調に進んでいます。これをもって、船の建造、工場の設営を実際行っていきます。



――小型船は、まず水素か、将来的には燃料電池とか言っています。この電気運搬船の件は、既に報道されているとはいえ、これほど電池船の話が具体的にすすんでいると改めて今回お話をお聞きすると非常に現実的と感じました。実際に24年、25年とか船として出てくること、改めて我々の認識のアップデートが必要ですね。

 水素に関していうとブルー、グリーン水素があり、特にブルー水素は、石炭を焚いて水素を作っているのでエコではないなと思っています。しかも海外から、重油を焚いて海上輸送している、仮に水素、アンモニア燃料でもってくるとしても、やはりコストもかかります。日本国内で洋上風力の電気から水素をつくるとなっても、エネルギーロスが大きく、更に再度電気にすると、最大80%のロス、良くて60%となり、これでは経済合理性はないと思っています。決して水素がだめだという事でなく全方位で色々な可能性を検討しています。
 電気運搬船が良いと思ったのはインフラがミニマイズできるという点です。水素の場合は処理するインフラが陸上に必要です。船の場合、それが全世界に普及せねばならないわけです。しかも液体水素で調達しようと思うとマイナス250度で保管する必要があるため、インフラが限られてしまいます。さらに水素から電気を発電する場合、当然さらに発電インフラが必要になります。一方、電気運搬船であれば、放出する量次第では、どこでも給電でき利便性は高くなるわけです。そのあたりのコンパチビリティの差が電池船の優位なところです。


――今現在は、水素、アンモニアが騒がれていて、このような蓄電池の事はあまり注目されていなかったような気がします。

 おそらく今まで蓄電池が高すぎたのだと思います。今後は注目されると思います。蓄電池の値段は、KWHあたり150,000円が普通でした。今は例えばテスラの北海道()の例は計算すると49,000円/KWHくらいです。このレベルまでくれば採算が見えてきますし、さらに蓄電池の価格は下がりつつあります。
 LFP(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)電池は、使用しているレアメタルはリチウムだけでニッケルは使っておらず、価格は下げやすくなっています。エネルギー密度がリチウムイオンバッテリーより低いというデメリットもスペースのある船は、欠点を吸収しやすく、安価で安全なLFPバッテリーが使えます。
 我々がこういった船舶用蓄電池をつくれるようになると、造船会社にその電池を使用したエコな船をつくっていただきそれがビジネスになると考えています。時間はかかるかもしれませんが、欧州では既に始まっているので、日本の造船業に対してもそれを提供したいですし、日本で実現できるとアジア等にもどんどん供給できると思っています。そういったサプライチェーンを日本でつくりたいと思っています。


※21年夏に発表された大型蓄電システム「Megapack(メガパック)」を使った、電力卸市場、需給調整市場、容量市場へ参加する日本初の蓄電池発電所「北海道・千歳バッテリーパワーパーク」プロジェクト

 決して、水素と対決、競合するとかそういう発想でなく、いくらでも水素と併用できると思っています。バッテリータンカーの駆動エネルギーが水素・アンモニアといった組み合わせはあると思います。インフラのない目的地では、電池の電気が使え、駆動は燃焼系のエネルギーの方が効率は良いわけですから、併用していくべきと考えていきます。


――マリンネットは、船価鑑定も事業の柱ですが、電気運搬船の価値、蓄電池の評価などいずれ取り組む事がでてきそうですね。

 関連しそうな話をすると欧州ではすでに始まっているのですが、蓄電池の性能保険があります。例えば陸上の電力系統に設置される蓄電池にはこの保険があり、機会損失のリスクがカバーされています。この仕組みがあると船でもリスクが軽減されプロジェクトファイナンスの組成もできるわけです。
 洋上風力の海底ケーブルと同じような保険、プロファイの仕組みとなり、むしろ船の方が機会損失の時期が短いとなると、その分、保険対象としては魅力的だと感じます。またファイナンスの対象としては、むしろ電気運搬船の方が(ケーブルよりは)取組みやすくなってくるのではと思っています。



――保険会社とは議論されているのでしょうか。

 今、まさしく話をしているところです。電池の記録自体はクラウドで取れますし、取組みやすいと思っています。また強風時に最大発電が長続きしすぎてしまうと、船が取りこぼしてしまう可能があり、そういったリスクをカバーする保険もできるかもしれません。年1回あるかないかだと思いますが、船が取りこぼした分をカバーする仕組みです。このようにいろいろな可能性があるのが面白いですね。形状的には、コンテナライズされている電池ですし、仕組みとしては、安全性を担保しながらコストはリーズナブルなものになりそうです。
 蓄電池の話をさらにすると、形状自体は、コンテナサイズですが、通常のコンテナよりは重くなってしまうと試算ができます。しかしながら今後、バッテリーも、液体、半固体、固体となっていくに従い、エネルギー密度は、高くなり軽くなっていくと考えています。そうなると更に効率は上がっていきます。この船の受注が盛んになる2020年代中頃に半固体電池も展開されているでしょうから、そちらに移行していく事になると思います。
 2月の末がファンドレイズで3月、4月にはいくつか業務提携が決まってきます。参加した会社によって今後の絵が決まっていくと思っていますし、電力系、保険会社、造船会社も参加いただけるとで、ここで申し上げていることの実現が近づくわけです。例えば、蓄電池系の事業は石油系の会社がガソリンスタンドの代替にEV充電を置くとか、コンビニ会社が店舗に置くなどそういった事が実現できるわけです。冒頭触れたNorthvolt社が面白いのは彼らの最初のファイナンスもベンチャーキャピタルでなく、事業会社が参加したことで、事業の推進とともに出資を追加していき強力な会社になってきているところです。我々ベンチャーの良さは、大企業が1社単体ではリスク張れないようなところを少し出資してもらい先行して手掛け、可能性が見えたときに更に強固に事業会社と取り組み、追加出資できるといったところです。まだ日本では、造船、エネルギーのベンチャーが少ないため、取るべきリスクがたくさんある産業だと認識しています。そういったリスクはベンチャーが得意とするところではと感じています。日本ではそのような小さなところから始めていき、いずれ海外のようにベンチャーが巨額の投資を集めて、ロケットをつくるといったような話などが出てきてほしいとと思っています。



――海運業界は、歴史がある分、古いカルチャーを背負っている業界だと思いますが、電気運搬船という新しいコンセプトを業界に展開するにあたって難しさはあるでしょうか。

 難しさは、そんなにないですが、海運といっても造船所、造船所のサプライチェーン、海運会社の役割はそれぞれ違うため、どのレイヤーでイノベーションを起こせばいいのかが課題だと思っています。誰がリーダーシップ、リスクを取っていくかですね。
 造船だけだと付加価値をどこで付けていくか、そのためには研究開発も必要だったはずで、コスト競争だけでは海外勢には勝てないのだと思います。そういった付加価値の研究投資は、海運会社レベルの企業様は、すごくやっておられるという印象がありますが、海事産業全体を見るとまだまだ改善の余地はあるのではと勝手ながら思ったりしています。



――そうですね。いまや日本の造船はシェアで中国、韓国 の後塵を拝してしまっています。造船業界が悪かった頃に日本の造船所は、研究開発費のコストカットを実施しました。そうなるとなかなか人材も集まりにくくなり、折角、造船工学を学んでも別の企業に行ってしまうとか非常にもったいない話です。こういった研究開発のしがいがある、新しいものを作っていこうという事がまた造船業の活性化につながるかと思うと楽しみですね。

 今米国で「Relativity Space」というロケットを3Dプリンタで造ろうとしているベンチャー企業があります。実際に大型ロケットの対NASAの受注を抱える企業になっています。ロケットが3D化できるなら、船も当然できると思います。そうなるとロケットより船の方がより数が多い分3Dプリンタが使われることになります。そういったイノベーションを起こさないといつまでも人海戦術となってしまい、いずれ労働人口が枯渇していく、その一方ロケットでベンチャー企業が昨年700億円を調達して、建造に1年かかるロケットを2か月で造る仕組みができています。同じ事が、船舶のハルの建造とかでできないかと思います。こういった事は無理とか難しいとかいう前にベンチャーでできないのかとも考えています。
 海運業界ではそういったチャレンジが必要です。燃料の研究、IOT化などは取り組んでいるものの、本当は、このような製造のコアにもっと取り組んでもいいのではと思っています。東南アジアもユニコーンベンチャーが何社もできていますし、米国のベンチャーキャピタルも中国で投資尽くして、東南アジアにどんどんお金が流れています。しかしながら日本には全然きていません。
 我々Power Xが突拍子もないアイデアを出して、実際にお金が集まり、然るべき企業と提携できれば、他にもやってみたいと思う企業家はいくらでも出てくると思います。それで何社かハード系ベンチャーがでてくるとそれは大変良い事だと考えています。
 日本は人口が減る一方ですので、オートメーションがやりづらいとされている大型船の造船は課題が多いのではと気になります。
造船業もこういった様々なイノベーション等も駆使し、憧れの業種にならないといけないと思っています。憧れの業種になると優秀な人が集まってきます。また更に若い人、優秀な人の生活価値観に入っていく必要があり、それができると人は集まってくると思います。実際そのような取組みができている会社はやはりうまく行っています。
 Power Xもそんな優秀な人が受けたくなる会社にしたいと思っています。従い、いずれ発表しますが工場も単なる工場でなく、立地も含めてわくわくするような、働きたいと思ってもらえる工場にしたいと思っています。



――楽しみにしています。本日は、ありがとうございます。



 
【プロフィール】
伊藤 正裕(いとう まさひろ)
1983年生まれ 東京出身
2000年株式会社ヤッパを創業。2014年M&Aにより株式会社ZOZOに入り、ZOZOテクノロジーズの代表取締役CEOを経ち、2019年より株式会社ZOZOの取締役兼COOに就任。「ZOZOSUIT」、「ZOZOMAT」、「ZOZOGLASS」など数多くの新規プロダクトの開発を担当し、ZOZOグループのイノベーションとテクノロジーを牽引。2021年3月に株式会社パワーエックスを設立。
 
■株式会社パワーエックス(https://power-x.jp/ja/

記事一覧に戻る